短編A
□瞳があった瞬間に
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おかしい。
笠原の様子が、どうもおかしい。
俺と話をしているときは全く目を合わせようとせず、極力関わりを避けられている気がする。
それなのに、遠くからじっとこっちを見たり。
訳が分からん。
理由を直接聞くことが出来ればいいのだが、相手は笠原。
ごまかすのは下手なくせに、決して言おうとしないだろう。
それから三日間、全く状況は変わらなかった。
+++
笠原にデスクワークを任せてから一時間が経つ。
内容は簡単な物だったので一人に任せて三人で違う業務についたのだが。
「笠原さん、遅いね」
「あぁ。もう一時間も経つな」
「もうお昼の時間だけど」
「…様子を見てくる」
「あ、自分が行きま」
「手塚はここで俺と待ってようね。堂上いってらっしゃい」
小牧に背中を押されて、笠原のいる部屋に向かった。
+++
「…おい」
思わずため息が出た。
…机の上で寝ているとはどういうことだ!?
書類を見ると、仕事は一応終わっているようだ。
…というか、
「デジャヴ、だな」
前にもこんな状況になったことがあった。
あのときは寝ぼけた笠原に『王子様』と呼ばれ散々だった。
相当疲れているようだし、寝かしといた方がいいか?
だが、昼食の時間も必要だろう。
俺が心の中で葛藤しているときに笠原の「ん…」という声が聞こえた。
「起きたか…?」
「…教、官?」
寝呆け眼で俺を見、書類を見、そしてまた俺を見て、
「すみませんッ!」
「…いや、もう昼食の時間だから大丈夫だ」
そう言いつつ彼女を見ると、寝癖がついていた。
無意識に手を伸ばし、髪をなでつける。
一瞬彼女がビクリと震えたので付け足したように言う。
「寝癖だ」
「す、すみません…」
「いい」
そう言いつつ頭から手を離した。
…一体視線を合わせたのは何日ぶりだろうか。
〔瞳があった瞬間に〕
((触れたい、という衝動に駆られる自分がいる))
御題元・Silence