短編A
□恋の相手
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「篤さん、これ見てください!」
そう言いつつ走り寄ってきた郁。
休憩時間になってもなかなか書架の前から動かないと思っていたが、どうやら気になる本があったらしい。
「どれだ?」
「これですこれ!」
彼女に示された部分を黙読する。
内容は“長い時間見た相手を好きになりやすい”といったものだった。
「だから小牧教官は毬江ちゃんが好きなんですよ!」
「言われてみれば一理ある。でもな、」
その続きの言葉は本と一緒にかっさらわれた。
「その理屈だと、特殊部隊の殆どの人が笠原さんに惚れることになるよね」
「!?」
小牧の言葉に目を見開いた郁。
気付いてなかったのか。
「あくまでも一説でしかない、ということだな」
「…ですね」
郁は嬉しそうにそう言った。
小牧が立ち去ったのを見てからたずねる。
「どうした?」
「もしさっきの説が本当なら、私達は必然的に恋をしたんだな、と思って。運命じゃなくって。それはなんか嫌だなぁとか思ってたので、」
嬉しかったんです。
その言葉にドキリとした。
なんとか平常心を保って言葉を返す。
「まぁ偶然でも必然でも、今郁と一緒にいる事実に変わりはないがな」
「…そう、ですね!」
〔恋の相手〕
御題元・Silence