短編A
□彼はあの娘に夢中
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皆さん、聞いてください。
最近、俺の尊敬してやまない堂上一正が、
「だから笠原、上着を脱ぐな!」
「なんで!?他の人はいいのに何で私だけ!?」
――――――彼女を溺愛しすぎて困ります。
いつものように争い始めた2人を見てため息をつくと、いつの間にか隣にいた小牧一正が「本当に飽きないね」と笑っていた。
「自分の性別を考えろ!」
「タンクトップくらい普通です!てか家では何も言わないじゃないですか!」
「当たり前だろ!」
「何で!?」
「ちょっとは自分で考えろ!」
周りの隊員たちも「まーた始まったよ…」と苦笑しつつその場を離れていく。
なぜ彼らが離れていくのか。
それは勿論、
「俺以外の奴らに、…見せるな」
「ッ!」
こんな風なベタ甘な会話を聞かないために、だ。
俺だって出来ることなら聞きたくない。
誰が自分の憧れの上官が同期を溺愛している姿を見たいと思うか。
しかし、がっしりと自分の腕を掴んで放してくれないのだ。
隣の、上官が。
「手塚、あの2人をとめてきて」
そう笑顔でいう上官に、俺は抵抗することを諦めた。
この人だけは、死んでも敵に回したくない。
大人しく2人のもとへと歩いていく。
〔彼はあの娘に夢中〕
(あのー、大変申し上げにくいのですが…)(それでも暑いものは暑いんです!)(お前なぁ…!)((聞いてくれよ、頼むから…))
御題元・Silence