短編A
□最期に逢いたい
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「堂上ッ」
鋭い声とほぼ同時に、全身に衝撃がはしった。
どん、という鈍い音。
床に身体が叩きつけられた。
自分の腕の中で微かに動いた子供。
―――良かった、生きてた。
たくさんの人が周りを囲んでいるのが感じられる。
その中で数人が近くに走り寄る。
「堂上、堂上!」
…小牧?
どうした?
そう言おうとするのに、口が上手く動かない。
言葉の代わりに出たのは、血。
「誰か救急車!」
あぁ、俺は死ぬのか。
そう思った瞬間、今までの記憶が駆け巡る。
玄田隊長、緒方副隊長、小牧、手塚、――――郁。
郁、郁、郁。
逢いたい。
急に死ぬのが怖くなる。
居なくなった穴は、必ず埋まる。
そう言ったのは、紛れもない自分。
しかし、今同じ事を言えるかと問われれば、答えられないだろう。
あぁ、逢いたい。
逢いたいんだ、郁。
どうしてお前は今、隣にいない?
〔最期に逢いたい〕
((早く来い、郁、…))(…堂上?堂上ッ!)
御題元・Silence