役目ですから

□第1章
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「……ハァ」


生徒会室の前についてため息をついたあとノックをする。


「どうぞ」


聞こえた声に思わず眉間に皺をよせる。声の主は集会で何度か聞いたことのある副会長のものだ。
あの胡散臭い笑顔嫌いだな。
前威嚇しようとしたら椎名に叱られたけど。


「失礼します」
「……おや、あなただけですか?三鷹文人」
「えぇ。そちらもあなただけですか?涼風紬(スズカゼツムギ)副会長」


椎名もいないので軽くにらむ。
対する涼風副会長は相変わらずの笑顔でこちらを見る。
こいつ……絶対に腹黒いよな。


「はい。他は出ています。それで、飼い主はどこですか?」
「椎名は…巡回中。俺は風紀の書類届けにきました」


感情をこめずにそう言うとと涼風副会長は馬鹿にしたように笑う。


「風紀?君は只の犬でしょう。何様のつもりですか?」
「そのご主人からの命令ですよ。さっさと見ろよ」


書類を投げるようにして渡すと目の前であからさまにため息をつく。


「……本当に躾のなっていない犬ですね」
「お褒めにあずかり光栄です」


俺をにらみながらも涼風副会長は書類に目を通していく。




「…終わりましたよ」


しばらくして顔を上げた副会長に手渡された書類を受け取り、一応確認する。


「仕事だけはできるようですね」
「………空気が汚れます。至急出ていってください」
「あれ、おかしいですね……。俺が入った時から空気は最悪でしたけど」


失礼しますと言って出ていく。


「ハァ、何で俺が風紀の仕事を……。早く椎名のとこ行かないと」
「なんだ?もう行くのか?」
「…っ。……あぁ、あんたか」
「なんだ?紬との対応と違うじゃないか」


目の前の人物はニヤニヤとむかつく顔で笑った。
無駄にイケメンな目の前の人物、竜宮総司(リュウグウソウシ)はここの生徒会長。
生徒会は風紀とは仲が良くない。涼風副会長のように風紀を嫌っている人もいる。
それだけでむかつくのだが、なぜか自分に絡んでくるのだ。


何がしたいのか本当に理解できない。


「……一応、さっきまでは椎名の命令で動いていたからな。俺の失態は椎名の失態につながる可能性がある。今はもう終わったからあんたに関わることさえしたくない」
「相変わらず従順だな」
「…当たり前だ。それより邪魔だ。会長はおとなしく仕事でもしとけ。どんなに馬鹿でも書類に判子を押すくらいできるだろ」
「そして相変わらずの口の悪さだな」


自分のご主人である椎名とは正反対の金髪にあえて着くずした制服。
そんなやつに微笑まれても何も感じない。
かっこいいなとは思うけど。


「俺はお前と違って忙しい。関わるな」
「ご主人様にしっぽでも振りに行くのか?」


からかうように言った言葉に立ち止まり振り向く。


「俺のご主人がそう望むなら見えないしっぽをおもいっきり振ってやるさ」
「……へぇ」


そう答えた俺に会長はおもしろそうに笑う。

俺と関わることは風紀委員長の怒りを買うことが稀にあるという噂があるため、めったに人は話しかけてこないが、それはこいつには関係ないらしい。


「俺にかまう暇があるなら仕事でもしてろ」
「仕事する暇があるならお前にかまうさ」
「……はぁ?」
「本当に飼い主以外には懐かないんだな」
「懐くさ。椎名の敵じゃないならな」


そう言い背中を向けて歩きだす。


「お前と違って俺は会長にかまう暇があるなら仕事するから」


最後にそう言うと振り返らず歩き続ける。
あいつが今どんな表情をしているのか想像がつく。


きっと、さっき以上におもしろそうに笑ってるんだろうな。


「ハァ」


どこをどう間違えたらあんな態度の俺が好かれるんだ?
あいつには女みたいにかわいい親衛隊がいるんだからより取り見取りだろうに。


一旦、書類を風紀室に置きに行き、その後で椎名を探しはじめた。


その間にもすれ違う生徒は皆驚いたような表情をする。


「三鷹様がお一人でいらっしゃるなんてめずらしい…」
「今日は椎名様どうしたのかな?」
「あぁ、今日もとてもお綺麗だなぁ」



人が多い場所に来てしまった自分に少し後悔しながらも進む。


「あ、そう言えば、僕さっき椎名様見たよ」
「え、本当?いいなぁ」
「本当だよ。椎名様もお一人だからめずらしいって思ったんだよね」


椎名を見たという言葉に反応してピタリと立ち止まる。
その会話をしていた生徒を探しそちらへ向かう。


「なぁ」
「み、三鷹様!?」
「どうなさったんですか!?」


2人の生徒は驚いて口がだらしなく開いていた。


「今の会話本当?」
「へ?」
「椎名、見たんだよな?どこで見たかわかるか?」
「え、えっと…そ、そこの中庭にいらっしゃいました!」
「そうか。ありがと」


もうすぐ会えると思うと思わず顔が綻ぶ。俺は親しい人の前以外ではあまり笑わないのだが…。
俺がいつも笑うのはほとんどが愛想笑いだ。しかも若干引きつっている。
こんなふうにまともに他の人の前で笑うのは久しぶりかもな。


「あ……ぁう…」
「かっこいい……」



顔を真っ赤にして動かなくなった二人にもう一度お礼を言い中庭に向かう。


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