役目ですから

□第2章
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「………今月に入って何件目だ?」
「えっと……18件だな」


椎名に聞かれて答えるが、俺も椎名も疲労しているのが一目でわかる。


「何だよ、あの猿は」
「この世の生き物とは思えないな。まだ今月半分もたってないどころか1週間しかたってないのに…」


それなのに、今月に入り起きた問題は18件。
そのすべてにとある人物がからんでいるときたから困ったものだ。


「椎名、風紀よりひどい問題がある」
「何だ?」
「生徒会がまったく仕事をしていない」
「……何やってんだあの馬鹿どもは」
「このままだと生徒会と同等の権力を持つ風紀に流れてくるかも」
「……ハァ?…ふざけんなよ。ただでさえ仕事が増えて人手不足になってんだぞ?……そんな時にあいつらの尻拭いなんてできるか!」


書類を整理していた椎名は勢いよく立ち上がり、怒りをあらわにしてこちらに詰め寄る。


「あくまで可能性の話だ」


椎名に目を向けることなく風紀の書類を片付ける。
話すときは相手の目を見て話すのが礼儀かもしれないが、そんな余裕はない。



「チッ、あの疫病神が……!」
「落ち着いて。俺から話しておこうか?」
「………いや、いい。文人はあいつに関わるな」
「?」
「お前が生徒会のやつらみたいになったら困るっつってんだ」


一瞬きょとんとしてしまったが、思わず笑みを浮かべる。
それを不思議そうに椎名が見てきたので、笑ったまま椎名を見て口を開く。


「俺が椎名より優先させなきゃいけないことがあると思ってるのか?それに…………あんなやつらと同じにするな」
「…そうだな、わるかった」
「でも、心配してくれたんだよな?……ありがとう」


ふわっと笑うと椎名は照れくさそうにそっぽを向く。

椎名はちょっと言葉遣いが乱暴だったりケンカが強かったりするけれど、根は優しいんだ。
それに、責任感もある。


もし生徒会の仕事が自分に回ってきたとしても椎名は文句を言いながらもやるだろう。



これ以上、負担を増やすわけには行かないよな。


「じゃ、行って来る」


自分で手伝おうと決めていた量の書類を整理し終えた俺はガタリと立ち上がった。


「文人」


扉に手をかけようとしたところで声をかけられ振り返る。


「俺もあったことはないんだが、風紀委員のやつらの情報だ。あの猿には名前を教えるな」

「何で?」
「教えたとたんに見事に友達認定だ」
「うわ…」


何だそれは。
そんな生き物がいたとは驚きだな。
名前を言い合えば友達だなんて、そいつの友達は何人いるんだ。


「わかったな?」
「……それは命令?」
「いや、個人的な頼みだと思ってくれ」
「りょーかい。んじゃ行ってくるから椎名はここにいろよ」


もう一度笑いかけて扉を開ける。


しばらく歩くが今は授業中なので誰もともすれ違わない。ただ、俺の足音が響くだけだ。

風紀が人手不足というのは本当だ。だから、椎名は風紀の特権の授業免除を使っている。
なぜか風紀ですらない俺にもそれがあるのは椎名が根回ししたんだろうな。
前まではなかったけど、今の状態は俺が授業を休んででも手伝うと思ったんだろう。


さて、もうすぐ授業も終わるし次は昼食をとりに行くために転校生も動くはずだ。
その前に話をしなければならないな…。





どんなやつだろうか?
転校生、井澤和俊(イザワカズトシ)は……。


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