役目ですから
□第1章
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「行くぞ」
「あぁ」
全身からまぶしいくらいのオーラを放つのはこの学校の風紀委員長である椎名高雅(シイナコウガ)。
それに付き添う俺は言わずと知れた“風紀委員長の犬”である三鷹文人(ミタカアヤト)だ。
俺が椎名の犬と呼ばれるのはそのままの意味。
もともと俺の家系は椎名家のサポート役。俺の父は椎名父の秘書をしている。
後々俺もそうなることが俺の意思に関係なくだいたいは確定している。
そのことに関して別に不満があるわけではない。
椎名は“ご主人”になるには申し分ない才能がある。
こうしてここで風紀委員長をしているのがいい証拠だろうし。
俺は風紀委員というわけではないのだが、椎名の隣は三鷹の指定席らしい。
見回りもほとんど一緒だ。
そこまで一緒ならこのホモ学校ではよからぬ噂が流れることを心配したのだが、表向きは俺達が付き合っているというあり得ない噂は流れていない。
そう、表向きは……。
天下の風紀委員長様が怖いらしくそんな噂が聞こえないように影で言われている。
俺の立場は情報が必要になる。
だから情報が回ってくるのが早いほうだと思う。
だが、その噂をわざわざ椎名に教えるような真似はしない。
そんなことしても俺の特にならない。何より、椎名の得にならない。
「……生徒会連中に会いに行くのめんどくさ」
「書類あんだから仕方ないだろ……。他のやつらじゃ対等にはなれないんだから」
俺がどうでもよさげにそうつぶやくと椎名は何かひらめいたような顔をした。
「おい、文人!お前───」
「断る」
「まだ何にも言ってない」
「椎名が何か思いついたら9割俺に災いが降り掛かるだろ」
「そうだったか?」
ニヒルに笑う椎名は贔屓目なしにかっこいい。
身長は180をこえていて、足はスラッと長い。艶のある低い声で口説かれたら落ちないやつはいないと言われているし、切れ長な目にはどこか色気を感じてしまう。髪は染めたことがないので綺麗な漆黒だ。
だから一緒にいて劣等感を感じるほどだ。
「あぁ、前は強姦現場に俺だけを向かわせた。別にかまわないが俺は風紀ではないだろ。対応ができずにしばらく放置された。前はアイスが食いたいという理由だけで寮ではなくわざわざ外出届けを出させてまで外に買いに行かせられたよな。もちろん溶けていたから結局は寮のアイスになった。それに……」
「わかったわかった」
わかってないだろ。
まだまだ言いたいことは山ほどあるんだが。
例えば、もうどっかに行った体育教師の頭はカツラかどうかを調べたくて俺に調べさせたり……。
そのせいで体育教師がどっかに行ったとしても俺のせいじゃない。断じて俺は悪くない。
「でもよ、お前の不満の数だけお前は俺の頼みを聞いてるんだろ?」
「……」
事実なので目を背けると、頭を撫でられる。
「拗ねんなよ。お前は俺の優秀な相方だ。文人、行ってくれるよな?」
「………わかったよ」
どうして俺は椎名の頼みを断れないんだろう。
優秀だって言われたくらいで嬉しくなってる自分が恥ずかしい。
「椎名はどうするんだ?」
「ま、とりあえず見回り。会長にセクハラされたら言えよ?」
「……されるわけないだろ」
はき捨てるようにそう言うと1人で生徒会室へ向かう。
途中ですれ違ったせいとは俺が1人で歩いているのがそんなに珍しいのか顔を赤くさせながら驚いている。
俺だって1人で行動することくらいある。
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