役目ですから

□第3章
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あれから結局、俺は床で寝た。
最後まで竜宮は渋っていたが、文句を言われても無視して毛布を一枚はおって横になった。


ベッドで寝たと思った竜宮までもが床で寝ているのを見たときにはため息をついてしまった。



「お前は客人なのだから遠慮などしたら俺が困るのだが…」


着替えながらそう言うと居心地悪そうに視線を泳がせながらわるい、と言った。


「昨日、晩飯を食った場所は覚えているか?」
「あぁ」
「先にそこへ行ってろ。俺もあとから行く」
「……?何か用事か?」
「少し……本家に挨拶に行く」























「文人、お前は1人で来たのではないのか?」


父さんに会って最初の言葉に俺は内心苦笑いをする。
挨拶もなし、か…。



「はい。竜宮家のご子息の総司さんと共に」
「理由は?」
「…りゅ……総司さんのご厚意に甘えました」
「ほう…、竜宮か。あそこは権力もあるが人望もある。長く付き合いなさい」
「……わかりました」


少し胸が痛くなった。
自分の意志ではなく父さんからの命令で竜宮と関わると言うのがなんとなく嫌だった。

理由はわからないけれど……。


「どうした…?」
「え?あ、いえ」
「三鷹家次期当主がそんなことでどうする」
「申し訳ありません」
「ハァ…もういい。行け」
「はい。失礼しました」


部屋を出ると、毎回恒例の使用人のお辞儀が待っていた。
分家では見なれない風景に一瞬だけ戸惑ったが、気を引き締めて歩く。


しばらくはまた戻らないだろうけど、本家には何の思い入れもない。
幼いころから俺は分家で育った。本家にいたのは一時期だけだ。




「お、早かったな。もういいのか?」


朝食を食べていた竜宮は箸を止めてこちらを見る。


「あぁ」
「お前も早く食えよ。うめーぞ」
「……知っている」


俺のぶんまで用意してあったので、席について食べはじめる。


「ごちそうさま」
「……」
「なんだ?かっこよすぎて見惚れたか?」


きちんと手をあわせて皿を持っていこうとした竜宮を見ていると、ニヤニヤしながら聞いてくる。


「そんなわけないだろ」
「でも見てただろ」
「お前がごちそうさまを言えて皿を持っていくようなやつだと思わなかったからな」
「は?こんぐらい誰でもやるだろ」
「やらないだろ」


特にあの学校の生徒は。
お坊ちゃんばかりだから、周りのことは周りでやり、自分のことも周りがやる。それが当たり前だと思っている。
一生そう思い続けるかもしれないし、挫折すれば違うと気づくだろう。

まぁ、他人がどうなろうが知ったことではないが。


「まぁ、俺くらいになればそのくらいやるんだよ」
「他の生徒にも見習ってほしいものだな」
「だよな。さすが生徒会長」
「自画自賛するな」
「事実だろ」
「……」
「な?」
「そのくらいで調子にのるな」


自分のぶんの皿を持って立ち上がり竜宮に背を向けるとかわいくねーな、と聞こえてきた。
かわいさなどいらないから別にいいのだが…。


「文人、食ったなら早く出かけようぜ」
「……楽しそうだな。お前のテンションが高いとなぜか俺のテンションが下がるのだが」
「そりゃけっこう」


また楽しそうに笑い、料理長においしかったです、と言って部屋に向かっていった。


「意外に礼儀正しいんだね。びっくりびっくり」
「…っ、気配を消して背後をとるのはやめろといつも言っているだろう、兄さん」
「癖なんだよ。仕方ないよ。それに、いつもなら気がついてくれるからね」


綺麗に微笑む兄さんは少し体調が悪いように見えた。


「大丈夫か?」
「ん?あぁ、ちょっと調べ物をしていたからね。あまり寝てないんだよ」
「あまり無理するなよ」
「わかってるよ。ありがとう」
「……別にお礼を言われることじゃない」
「そう?あ、そうだ。はい、これ」


持っていた袋を俺に渡す。


「これは?」
「お菓子とかだよ」
「ずいぶん量が多いんだな」


渡された袋にはかなりの量があり、これをいったい誰に渡せばいいのだろうか…。


「風紀委員会の皆さんとか文人の同室の人とかたくさんいるでしょ?」
「わざわざ渡す必要はないと思うが」
「日頃お世話になってるんだからいいじゃない」
「……めんどくさ」
「ふふ、よろしくね」
「ハァ…わかったよ」


そう言うとさらに微笑んで俺の頭をなでる。


「いい子いい子」
「子供扱いするな」


手をどけて自分も支度しに行こうとすると手をつかまれた。


「……?」
「んー、やっぱり痩せた?なんか掴んだ感じが前より細いような…」
「そんなことないと思うが」
「そう?杞憂だったかな。じゃあ、気をつけてね」
「あぁ」


微笑みながら手を振るが、おそらくまた出かける前には会いに来るのだろう。
いつものことだからだいたい予想がつく。


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