小説的なもの
□きみのため
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タンダは薬草採りから帰ってきた。山奥まで行ったので、疲れている。なので、小屋に入るとすぐに眠ってしまった。
深い眠りが浅い眠りになったとき、タンダは懐かしいにおいを嗅いだ。そのにおいが何なのか、彼にはすぐわかった。
…バルサだ。
バルサが帰ってきたのだ。
彼女は、タンダを起こさぬよう気遣ってか、音を立てずに小屋の中を動き回っている。
会いたい、歓迎したい、とは思うが、あまりの眠気で瞼がいうことを聞いてくれない。
もう一度、深い眠りに誘われそうになったとき、耳に息がかかった。
「わたりどりは、必ず、戻ってくるんだよ」
耳がこそばゆくなって、タンダは笑いそうになるのを必死で堪えた。
(眠気…とんだよ)
タンダは起き上がり、耳をそっと触った。甘い吐息がかかったときの感触が蘇る。