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□メリクリ小話
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「マリンにぬいぐるみはもう子ども過ぎるかな」


「いや、いいんじゃない?いくつになっても女の子はぬいぐるみ好きだっていうし」


「…ふぅん」


「あっ!今絶対『さすがタラシのザックス』とか思っただろ!?」


「…いや?全然」


「その顔は思ってる。ぜーったい、思ってる!」









 今日はクリスマスイブ。プレゼントを買い求める人たちでおもちゃ売り場はごった返していた。


 『今日を逃したらもう買いに行けない!』とザックスとクラウドはギリギリになってから慌てて出掛けた。…のだが。


 なにしろ毎日が忙しい何でも屋稼業。マリンとデンゼルに何をプレゼントするか、全くのノープランで来てしまったため、おもちゃ売り場でかれこれ一時間はあれでもないこれでもないと悩んでいた。



「デンゼルには…」


「あいつにはサボテンダープレイアーツで十分だろ」


 またそういう事言う、とじろりと横目でねめつけて、クラウドは足を他の売り場に向けた。シルバーアクセに最近興味を持ち始めてたから、そういった物がいいかも知れない。


 かわいい大きなぬいぐるみを片手に、カウンターディスプレイを覗き込むクラウドを眺めていたザックスは、確かに今、自分が幸福感に満ち足りていることを自覚していた。


(恋人とクリスマスプレゼントを買いにデートって、神羅にいた頃は結局できなかったもんな)


 どれにしようかと迷っているクラウドはどこか楽しそうでもある。人混みの熱気に中てられて染まった頬が、何とも云えないくらいに可愛い。


 自分へのプレゼントを選ぶときもこの位真剣に悩んでくれたりしたら、幸せ過ぎて軽く三回は昇天できそうだ。ザックスは自然と零れ出る笑みに頬を緩ませた。






「良かった。二人のプレゼントも買えたし、」


 帰ろうか。


 大きな紙袋を手に提げて、満足顔でクラウドは帰宅を促した。それに驚いたのはザックスだ。



「え」



 てっきり自分たちのプレゼントも買うものだと思い込んでいた。そのつもりでザックスはいたから、これからゆっくりとクラウドの欲しい物を聞きつつまったりデートを楽しもうとしていたのに。



「ザックス?」



「いや、ほら、えーと」



 しどろもどろになりながらあわあわと手を振る。滑稽としか言い様がない姿にクラウドは首を傾げるばかりだ。



「オレ達の分…は、どうすんのかなって」



 尻すぼみになっていく言葉とは裏腹に、顔はどんどん火照っていく。いつもの余裕のある自分はどこへいったのか。真っ直ぐと見つめてくるクラウドの瞳を直視できなくて、ザックスの視線はあちらこちらと彷徨うばかり。



 思えば再会してからというものの、ザックスのクラウドに対する想いは日々募るばかりで留まる処を知らない。好きだ好きだと毎日告げてもまだ伝え足りない。自分は昔っからこんなにクラウドの事が好きだったっけ?まるで恋する乙女のようだ。むしろ以前のクラウドがその立場だったはず。



 素直にもっとデートを楽しみたいと言いたいのに、いざクラウドに面と向かうと心がバクバクとして思ったように話せない。



 どうしてこんな女々しい男に成り下がってしまったのか、なんて理由は既に弾きだされている。



 クラウドが綺麗に成長してしまったからだ。



 外見のツンツンしたチョコボ頭や白い肌、純粋な心をそのまま映し出す瞳は変わらない。けれどもいくらかシャープになった頬から顎にかけてのラインとか、筋肉がついても靭やかな腕や脇腹のあたり。うつむいた拍子に見え隠れする項。もうクラウドの姿形、心が子どもだった頃より美しく強くなって(しかもその成長過程をすっとばしての再会で)、ザックスの前に存在しているのだ。



 それに比べて自分はといえば特に何も変わった所は無く。大人びたクラウドに対して自分は以前と全く変わってない…気がする。



 それは失われた三年間による経験の差だろうか。いつまでも年下の可愛い恋人だと思っていたクラウドが、ちゃんと自立した大人になってザックスより物の考え方がしっかりしてしまっていたりして。



 ずんずんと沈んでいく気持ちが顔に出てしまっていたらしい。



「ばかザックス。アホザックス。ヘタレザックス」



 ウザックス、とまで言われて泣きそうになりながらクラウドを見れば、正反対に嬉しそうに口元をほころばせた表情。



「…んだよぉ」



「てっきりザックスのことだから、もう俺の分は用意してるんだと思ってた」



「だって今のクラウドの好みとか知らねぇもん」



「なんだ、そんなことか」



 そんなこと、じゃない。これは由々しき問題だ。人生最大の難問だ。



「俺は、ザックスが俺の為に、って考えて、悩んで、選んでくれたものならなんだって嬉しいよ」



 ザックスだって、前のクリスマスの時そう言ってくれたじゃないか。



 照れ臭いのか少し俯き加減になりながらそう言うクラウドがたまらなく愛おしくて。



 人目を憚らずザックスはクラウドに抱きついた。



「〜〜〜っ!クラウドぉぉぉぉぉ!!」



「うわ、ちょっとやめろよ!バカ離せ!」



「もしかしてクラウドはもう用意しちゃった?オレの事考えながらプレゼント選んでくれた?」



「……っ!」



 一気に茹でダコみたいに赤くなった顔を見れば一目瞭然。忙しい仕事の合間を縫って、いつの間にかこっそりと準備していたらしい。





 嬉しいと思った。幸せだな、と。 



 好きだ好きだと一方通行に喚いていたかに見えて、その実クラウドもしっかりとザックスの事を想っていてくれた。





「俺は…こんなつまらない大人になってしまったけど、アンタはあの頃の真っ直ぐな心を持ち続けていて。それが羨ましいし、好き…でもあるし」



 ザックスの腕の中でぼそぼそと話す声。



「アンタは相変わらずカッコ良いし、強いし、俺の憧れってのは変わらないし。…いや、もう何を言ってるのか自分でもよく分からないな」



 忘れてくれ、と腕を突っぱねて離れようとする愛しい存在をどうして手放せようか。



 ますます力を強めてくるザックスにクラウドは眦を釣り上げて悲鳴を上げた。



「離せよ!苦しいから!ていうか人前でやめろ!」



「うん、今年のクリスマスプレゼントはオレをやる!決めた!」



「ッはぁ!?なんでそうなる…」



「だってクラウドの一番好きなモノってオレだろ?だから」



「待て、それはもう十分すぎるくらいに貰ってるからもういいっ」



 そうだ、合体剣のバージョンアップパーツが欲しいんだ、と必死の形相でおねだりしてみてももう遅かった。



 『今夜は寝かせないゼ☆』とウインク一つ煌めかせておどけた顔で笑ってみせるが眼はマジだ。



 ―――せめて二人の子どもたちにサンタのプレゼントを届けてからにしてくれ、と返すのだけで精一杯なクラウドであった。









2010.12.25



 ギリセーフ?







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