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□蒲焼になりそこねた蛇の話
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今日の何でも屋のお仕事は、「繁殖しすぎたミドガルズオルムの駆除」。



 ザックスは愛刀・バスターソードを片手にぶんぶん振り回し、いつでも行けるぜ!と余裕の笑み。

 対するクラウドは如何にしてあの巨体を一体ずつ仕留めるか、効率のいい方法を考えながら合体剣を組み合わせていく。

「そんじゃ、オレがちゃちゃっとあそこっから引き摺り出すから、」

「ああ、片っ端から切り刻んでいけばいいんだな」

 ばちん!とウインクしながら頼りにしてる、と笑ってザックスは駆け出した。

 これは元ソルジャーと星を救った英雄とまで呼ばれた男二人には、なんでもない小手先程度の仕事だった。





「もらったぁぁぁぁぁ!!」

 高々と鎌首をもたげたミドガルズオルムの、その下顎から突き刺した大剣はいとも容易く頭上へと突き抜けた。

 そのまま上体を捻り腕を大きく振りかぶる。一本釣りのようにして底なし沼のような湿地の深みから一気に引き揚げようとした。

 …が、しかし。

「―――えっ?ザックス…!?」

「んだぁ、こいつぅぅぅ!?―――んぎゃあああああ!!」

 ごきり、と嫌な音がしてバスターソードから手を放し落下していくザックス。

 クラウドは必死に走り、跳躍すると落ちてきたザックスを片手で抱え、もう片方に握っていた合体剣を既に突き刺さっていた大剣に沿わせて刺した。

 一旦地上に降り立ち痛みに悶えるザックスをそっと地面に横たえてまたすぐにはるか頭上、断末魔の咆哮を上げるミドガルズオルムに向かってジャンプをした。

 二つの柄を両手で掴むと、そのまま勢いをつけて縦に二つに裂いて押しこんでいく。吹出す体液を頭から被りながらもその手は緩めない。

 その長さおよそ200メートルはあろうかという、クラウドもいまだかつて見たこともないほどの長蛇。

 やがて尾の先まで二枚に下ろしてしまうと、片手でそれぞれの剣を振って血糊やらなんやら付着した

ものを払った。

「…ザックス!!」

 ふう、と一息ついたクラウドは後方で未だに呻き声を上げるザックスの存在を 思い出し、走りだした。






 何でも屋の扉には、「臨時休業」の看板がぶら下がって風にカタカタと音をたて揺れていた。

 寝室のベッドの上、腰にコルセットを巻きつけたザックスは面白くない顔だ。

「蛇の生殺しだ…」

 片眉を上げて反応を見せたクラウドは淡々と返事をした。

「意味知ってるのか」

「知ってら!馬鹿にすあぃたたたぁっ」

 上体を起こそうとして激痛にもんどり打つザックスを見つめる眼差しには同情の欠片もない。

「…あんた、馬鹿だろう?」

 ハイ、と小さな声が返ってきて、クラウドは天を仰ぐしかなかった。





 想像以上に長すぎたミドガルズオルムの長身を腰の捻りのみで引き揚げようとしたザックスは、腰椎捻挫を引き起こしてしまった。

 いわゆる、ぎっくり腰というやつだ。

 三日は安静にしているように、との医者の言葉に頭を下げて見送ったクラウドは寝室ではらはらと涙するザックスを見た。

「なんで泣くんだ」

「三日もクラを抱けないなんて…ううっ」

「ミドガルズオルムの餌にしてやろうか」

「ごめんなさい何も言いません」

 ザックスが起きれるようになるまでは、クラウドが家事をこなさなければならず、その間は仕事を休まなければならず。さらには依頼も未解決に終り成功報酬が入らず、むしろ赤字だった。





 慣れない家事に、心身ともに疲れきったクラウドが寝室の扉を開けて入ってくる。

「もう寝るのか?」

「ああ。…電気、消していいか?」

 ザックスは読んでいた雑誌をサイドテーブルに投げ、頷いた。首を横に向けて、目の前で寝間着に着替えるクラウドをしげしげと見つめる。

「なぁー」

「…なんだよ。しないぞ」

「ちぇ」

「あんた腰逝ってるくせに…」

「クラウドが上になればいいじゃないか」

 じろり、と寝台の上の病人を睨め付けたクラウドだったが、すぐに表情を改めた。

「え…な、なに?」

 たじろぐザックスの顔の横に座り、来ていたニットのジッパーをゆっくりと下げていく。蛍光灯の灯りの下、さらに白い肌が曝されてゆく。

 ゴクッ、と生唾を飲む音がした。

 真剣な眼差しのザックスに、クラウドはふ、と笑って立ち上がった。

「続きはまた今度な」

「そっ…!そんな殺生な!!」

「俺、今日はリビングで寝るから。トイレ行きたくなったら電話してくれ」

「クラっ!クラウドぉぅぉぅぉぅ…」

 そっと閉めた扉の向こうから、本気で啜り泣く音と、「ムスコが生殺しなんですけどぉぉぉ…」という切ない声が聞こえてきた。





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