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□上昇するもの
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ミッション前のミーティングを終えたザックスは、トレーニングルームに向かうかクラウドを誘って街に出るか考えながら食堂に向かって歩いていた。
今日はクラウドも本社警備。運がよければ昼飯一緒に食えるかな、と携帯を開いてメールを打とうとした時だった。
「ストライフ、ちょっとペン貸してくれ」
聞き慣れた名前に足が止まり、角から顔を出せばメットを被った兵士が二人、ちょうど食堂の方へと歩いて行く後ろ姿が見えた。
小柄な方がクラウドだろう。間違いない。袖から伸びた白い、けれどそれなりに筋肉を付け始めた腕でわかった。
「インク切らしちまってよ。…おおう、お前すごい手ぇ冷たいのな」
ペンを渡すときに少し触れたらしい。相手が驚いた声を上げた。
「…そうなんですか?」
クラウドはあまり自覚がないようで、手のひらをグーパーさせながら「グローブしてると暑いですけど」と応えている。
「もっと肉食えよ。あと魚。お前、好き嫌い激しいもんな」
「別に、先輩に関係ないじゃないですか」
「手と同じくらいに冷たい反応するなぁ」
ぶっきらぼうなクラウドの態度にも、相手の兵士は慣れた風に笑っている。もはやクラウドの可愛げのない態度はそのまま周りの人間達に受け入れられているようだった。
そっけないけど、純粋で真面目。つまりは不器用なやつ。それがクラウド。
それが、ザックスの好きになったクラウドだった。
「クラーウドっ」
「んぎゃぁ!」
ハートマークを飛び散らして後ろから抱きついた。三歩で一気に距離を詰めたから気配を感じる暇もなく、クラウドは盛大に飛び上がった。
「あ、ザックスさん」
隣の兵士だけが冷静だ。
クラウドにおぶさったまま、「よっ」と挨拶をする。相手も軽く手を上げて笑った。
今でこそソルジャーと一般兵士だが、こいつとはかつて同じ部隊だったから。適性が無くて、そのまま兵士として働いてるが、今でもたまに飲みに行ったりしている。そしてクラウドの良き先輩としても、お世話になっていた。
「なになに、クラウド冷え性なの?」
重いからどけ、とか暑苦しいとかつれない言葉を吐き続けるクラウドの手を取り、自分の頬に当ててみる。
「んー…?あったかいじゃん」
むしろちょっとしっとりと汗ばんでいるような…。
「もういいだろ、離せよ!」
その手を振り払って、クラウドは素早く懐から抜けだすと、食堂に向かってすたすたと行ってしまった。
一瞬、ちらりと見えた口元と項が赤く染まっていた。
「んんんんん〜?」
首を傾げるザックスと、「分かりやすいなぁ…」と呟く先輩兵士。脇を通り抜ける人らは奇異なものを見る目で彼らを見遣った。
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