完結作品

□俺と美形の人
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ああ、俺は重要なことを忘れていた。
例え一本道でも、林とか森など脇道があれば何故かそっちに行ってしまう。
言っておくが、これは無意識であって決して故意ではない。
つまり、俺は方向音痴なのだ。

「……迷った」

という訳で、俺は迷子になりました。
怪しい門番には道を真っ直ぐ進めば第一棟に着くと言われたが、俺を侮ってもらっては困る。
こんなことになるなら、最後まで道案内を門番に頼めばよかったのかもしれない。
一時間前の俺、何故道案内を頼まなかった!?
一本道で道案内を頼むのは恥なんて考えを捨てればよかったのに!

「どうしよう……早く理事長室に行かないと、一体あの人に何をされるか……」

半泣きの状態で森をぐるぐる回る。
てか何で学校の中に森があるんだよ!?
こんな学校、学校じゃねーよ!!
そして森、広すぎ!

「誰かいませんかー!」

声を出して人がいないか確かめる。
一応校内なんだし、人がいてもおかしくないはずだ。
朝とはいえ、木々が大木だからあまり陽が差し込まない。
森の中は薄暗くて物騒だ。
いや、別に怖い訳じゃないんだぞ!
ただ、本当に暗いなぁって──

「そこのキミ」
「ッ!?」

俺は思わず近くにあった大木にダッシュで隠れた。
い、いきなり何だ!?

「さっきオレを呼ばなかったか?」
「へ?」
「オレを呼んだだろう?」

俺は決して固有名詞を叫んだ覚えはない。
ということは彼の勘違いなのだろうが、でもかなり断定的に言うなぁ……。
俺はそんなことを言う人がどんな人か気になって、大木から少し顔を出した。
そこには、めちゃくちゃキラキラ輝いておられる方がいらっしゃいました。
スラリと伸びた身長、しかしただ痩せている訳ではなく筋肉が付いていると思われる体つき、それを包むこの学校の制服と思われる純白の学ランは金色の髪に合っている。
部品が整った小さい顔にはアッシュグレイの瞳が二つ、俺(顔の一部分)をじっと捉えていた。
アッシュグレイの瞳から、目が離せない。
何で……?

「キミがオレを呼んだんだろう?」

はっ!
そうだ、この見目麗しい人は勘違いしているんだ。
それをどうにかして正さないと!
俺は恐る恐る大木から姿を現す。
見目麗しい人は、俺の姿を確認した刹那、アッシュグレイの瞳の丸くした。
うわ、そんな表情でも美形は美形だ。
って、早く誤解を解かないと……

「あの、アンタを呼んだのは俺じゃ──」
「やはりオレの勘に間違いは無かった!」
「え、あの」
「さぁ、オレと共に行こう」

美形の人は呆然としている俺の手を取り、駆け出した。
って、ちょっと待てー!!
結局誤解を解く前に更に誤解(?)を生んでいる気がする!
てか走るの速いって!
俺とこの人じゃ脚の長さが違いすぎるから!

「ちょ、待て、って!」
「待てないな。急がないといけないんだ」
「え、何、で?」

俺の疑問に、美形の人は微笑しながらさらりと告げた。

「入学式が始まるからな」
「…………」

お、俺は……

「俺は一年生じゃねぇぇぇぇぇ!!」

うぇ、走りながら叫んだら更にキツくなった……。
俺の主張、ちゃんと美形の人は聞いてるんだろうか?
彼は何も言わずに走り続ける。
この沈黙が嫌で、俺は美形の人に声を掛ける。

「あ、の……?」
「キミが一年生じゃないことは判ってるよ。ただ、キミは大事な転校生だから早く在校生に紹介しようと思ってね」

全く意味が分からない。
どうやらこの人は俺が転校生だということは判っているらしい。
それは分かるが、俺が大事な転校生という部分が意味不明である。
しかもたかが転校生をわざわざ入学式で紹介しようとするのもおかしい。
しかし、何にせよ俺は入学式には行けない。
何故なら俺には何よりも優先すべきことがあるのだ!

「すんま、せん! この、馬鹿デカい、学校の、り、りりり理事長室まで、案内して、くれー!!」

理事長室って言葉は好きで噛んだ訳じゃないよ!
いきなり美形の人がスピードを上げたからだ。
マジで速いってー!!

「え、理事長室?」
「ぐはっ!」

今度はいきなり止まったー!!
って、俺、叫んでばっかりで疲れた……。

「理事長室ならそこだが」
「へ?」

いつの間にか、歩いて十分(もしくはそれ以上かもしれない)の距離を進んでいたらしい。
俺は理事長室があると言われた校舎を……校舎を……

「し、城ですか……?」

校舎もとい、城を見上げた。
うん、やっぱりこの学校は俺のような一般市民の敵だな!
なんか転校初日から疲れる。
俺は、この先大丈夫なのか……?




to be continued...


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