完結作品

□頭を撫でる手
1ページ/1ページ





「兄ちゃん! 遅刻するっ」

我が家の朝は慌ただしい。
一通り準備が終わってから寝起きが悪い兄ちゃんを起こし、僕は朝ご飯を食べる。
しかし兄ちゃんは一度起こしても二度寝するから、朝ご飯を食べた後にもう一度起こしに行く。
因みに二度目は蹴り付きだ。
そして渋々起きた兄ちゃんを洗面所へと押しやり、僕は兄ちゃんの制服にブラシを掛ける。
僕と同じ制服なのに、兄ちゃんは身長が高いから僕の制服よりも格好良く見える。
僕も早く兄ちゃんぐらい大きくなりたいけど、それを兄ちゃんに言ったら「お前はそのままでいい」って言われた。
僕だってもう少し大きくなりたい。

「そろそろ行くわよー」

車庫から母さんの声が聞こえた。
兄ちゃんと僕は自宅から少し遠い私立学校に通っている。
だから毎朝スクールバスが迎えに来る駅まで母さんに送ってもらっている。
母さんには本当に感謝してます。

「兄ちゃん! 早く!!」
「はいはい」

制服を来た兄ちゃんが玄関に現れる。
相変わらず兄ちゃんは制服が似合っていて恰好良い。
それに対して、僕は制服に着られてる感じがする。
……ああ、早く兄ちゃんみたいになりたい。

「どうした? 行くぞ」
「あ、うん」

僕は慌てて後部座席に乗った。
兄ちゃんは母さんの横、助手席に乗る。
因みに兄ちゃんの荷物は僕の横だ。

「今日は何時に帰るの?」
「オレは生徒会があるから最終のバスで帰る」
「僕は昨日と一緒」
「分かったわ」

兄ちゃんは生徒会長をしているから、凄く人気者だ。
平々凡々な僕とは違い、容姿も頭も良い。
同じ両親から産まれたのに、何でこんなに違うんだろう……?

「着いたわよ。いってらっしゃい」
「いってきます」

兄ちゃんは一足先に荷物を取って降りる。
僕はそれに続いて降りた。

兄ちゃんは、学校では一切僕と話さない。
同じスクールバスに乗っているけど、そこでも話さない。
理由は解らない。
家では普通に話すから、多分僕のことが嫌いって訳じゃないと思う。
……理由を知りたいけど、怖くて訊けない。
隣でバスを待つ兄ちゃんは、遠くをじっと見ている。
兄ちゃん、一体何を見てるの?

「あ」
「え、兄ちゃんどうしたの?」

兄ちゃんは僕を見て唐突にそう言った。
すると兄ちゃんはスッと右手を挙げる。
え、叩かれる!?
僕は思わず瞼をギュッと閉じた。
だけど、その後に来たのは痛みではなかった。
兄ちゃんの右手は僕の頭を撫でていた。

「兄ちゃん……?」
「んな寂しそうな顔をするな」
「……」

僕が寂しそうにしてたの、バレてたんだ……。
兄ちゃんは尚も撫で続ける。

「家に帰ったら遊んでやるから」
「が、学校では?」

気が付いたら、僕は訊いていた。
兄ちゃんは驚いた表情で僕を見る。
僕は俯きながらも勇気を出して続ける。

「僕、学校でも兄ちゃんと話したい!」
「……」
「兄ちゃんに迷惑掛けないように頑張るから……」
「頑張らなくていい」

兄ちゃんの言葉に、僕は顔を上げた。
兄ちゃんは凄く優しい笑顔を僕に向けていた。

「お前はそのままでいい」
「でも……」
「オレだってお前と学校でも話したい。でもオレと話したらお前に迷惑が掛かる」
「え?」
「オレの周りにはいつも大勢の生徒がいるからな。絶対質問攻めにされるぞ」

兄ちゃんは苦笑した。
じゃあ兄ちゃんは僕の為に……?

「ああ、バスが来たな」

兄ちゃんはもう一度僕の頭を撫でて、バスに向かった。
僕もいつも通り、兄ちゃんの少し後からバスに向かう。
やっぱり兄ちゃんとは話せないけど、今までよりも寂しくなかった。
兄ちゃんが僕のことを考えてくれていて、そして今日は頭を撫でてくれたから……。
でも、僕は兄ちゃんが家に帰ってきたら言おうと思う。
兄ちゃんと話せるなら、大丈夫だよって──




頭を撫でる手
(それは寂しさを紛らわしてくれる)




*fin*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ