完結作品

□俺と理事長
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さて、美形さんに振り回されつつも、漸く理事長室に着いた俺。
目の前には煌びやかな装飾がされた立派な扉、背後には此方も負けず劣らず煌びやかな美形さん。
……俺の平々凡々な人生を返せ、姉貴!

「入らないのか?」

美形さんが俺を促す。
別に俺は目の前の扉や背後の美形さんに怖じ気づいた訳じゃない。
ただ、あの人に逢うのが億劫なだけだ。
いや、でもあの人に逢わないと後々が面倒そうだな……。

「キミが入らないのならば、オレがノックして入るけど?」
「いえ、それは遠慮します」

美形さんの親切を丁寧に断り、俺は面倒という気持ちを振り払って扉をノックした。

「どうぞ」

扉の向こうから声が聞こえ、俺は少し肩を震わせた。
頑張れ俺、別に死ぬ訳じゃないぞ。
……多分。
そう言い聞かせながら、扉のノブに手を掛け回した。
やがて目の前に無駄に広い部屋が広がった。
また此処にも無駄遣いが……。

「光輝!」
「ぐはっ」

いきなりガバッと身体をホールドされる。
相手はただホールドしているつもりだろうが、苦しい……!
身体からメキメキって聞こえそう!!
いい加減放せって相手に言おうと思ったら、急に身体が浮遊感を覚えた。
……って、はぁ!?
もしかして俺、俗に言う“高い高〜い”ってやつをされてるのか!?
なんか屈辱的なんだけど!

「光輝〜相変わらず細いねぇ。ちゃんと食べてるのかい? もしかして兄さんに食べさせて貰ってなかった?」
「…………」
「は!? まさか光輝は可愛いから誰かから襲われ──ぐはっ」
「んなんじゃねーよ!! この変態オヤジめ!」
「さ、さすが光輝……見事な蹴りだ」

相変わらず変態発言を繰り返す目の前の男の腹を容赦なく蹴った。
案の定呻きながら俺を解放する。
やっと解放された……。
と、ここで背後からの視線に気付く。
あ、美形さんのことを忘れてた。
……み、見られたー!!

「理事長……失礼ですが、彼とはどういうご関係で?」
「ん? あ、キミいたんだね」

変態オヤジは見事に美形さんを今まで眼中に入れてなかったらしい。
ある意味凄いよ、うん。

「……それで、ご関係は?」

美形さんはちょっとだけ眉毛をピクピクさせながら訊いた。
さすがに怒るよな……。

「光輝はね、ボクの可愛い可愛い甥っ子なんだよ。ねー、光輝」
「だから苦しいんだって!」

美形さんに答えながら、変態オヤジ──俺の父方の叔父は、俺をぎゅうぎゅう抱き締める。
変態オヤジは無駄に力が強いくせに、こうやってスキンシップが激しいからウザい。
とにかくウザい。
まずはこの腕を外さないと、マジで死ぬ。
美形さんへの弁解はその後だ。

「……え?」
「あ、光輝!」

いつの間にか、変態オヤジの腕から俺は解放されていた。
その代わり、美形さんの両手が俺の肩に置かれている。
もしかして美形さんが助けてくれた?

「理事長、そろそろ彼に学校の説明をした方が良いのでは?」
「むむむ……仕方ない。光輝、こっちのソファーに座って」
「あ、うん」

ふかふかのソファーに、何故か美形さんと並んで座る。
え、まだ居座るの?

「キミはもう帰っていいよ。入学式の真っ最中だろう?」
「それは理事長にも言えますよね」
「ボクはもう挨拶が終わったからいいんだよ」
「それならオレも一緒です」

なんかよく解らないが、二人の間に火花が見える気がする。
まるで子どものように言い合って……アホらしい。

「変態オヤジ、早く話を進めてよ」
「光輝! 変態オヤジと呼ぶのは止めてくれって言っただろう?」
「だって変態オヤジじゃん」
「違うって!」

ダメだ、このままじゃ無限ループだ。
俺は助けを求めるように、隣に座る美形さんの学ランの袖を掴んだ。
そして俺よりやや高い位置にある彼の顔を見る。
うん、頼み事をするには相手の目を見ないと。
相変わらず綺麗なアッシュグレイの瞳を見ながら、俺は頼み事を言う。

「あの、ここは一度引いてくれませんか? この変態オヤジは我が侭なんで、なかなか自分の意見を引こうとはしないんです」
「光輝、ボクを優先してくれたのは嬉しいけど、ちょっとヒドいよ……」

目をうるうるさせながら変態オヤジが何か言ってくるが、無視。

「俺なら大丈夫です。変態オヤジだけど、一応俺の叔父なんで」

最後に微笑むと、美形さんは安心したのか、瞳を細めて微笑した。
うわ、さすが美形!
女の子が一瞬で惚れそうだ。
男の俺だって、ちょっとドキッとした。
……ちょっとだぞ!

「それじゃあオレは一旦帰る。また迎えに来るから」
「え、いいですよ。忙しそうだし」
「また迷子になるだろう?」
「う……」

核心をつかれて、俺は唸った。
確かにこの無駄にデカい校舎では、また迷いそうだ。
俺は渋々、彼の親切に甘えることにした。
視界の端で変態オヤジが何か言っているが、また無視する。

「携帯、出して」
「あ、はい」

美形さんが言うように携帯を取り出し、赤外線でお互いのアドレスを交換した。
この時、初めて美形さんの名前を知る。

「ひがし……みや、えい?」
「とうぐうあきら」
「え、これってあきらって呼ぶの?」
「確かに珍しいとは言われるが……せめて東宮ぐらいは読めて欲しかったな」

だって『東宮昶』だなんて、絶対すらすら読める人はいないって。

「終わったらメールして。迎えに行くから。離れるのが惜しいけど、またね、光輝」

そう言って、美形さん改め東宮さんは俺の頬に軽くキスをした。
キスをした。
キス……を……

「ギャー!!」
「光輝が汚されたぁぁぁぁぁ!」

立派な第一棟に、俺と変態オヤジの奇声が轟いたのだった。




to be continued...


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