完結作品
□ズルイです、
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世の中のお姉さま方、こんにちは!
僕のこと、おぼえていらっしゃいますか?
そう、自分では全く納得してないけど、まさかの王道展開に引き摺られ自分が不良×平凡の道を辿ることになった鳴瀬敏弘です!
あ、自己紹介長かったね。
ごめんなさい!
そんなわけで、最初からハイテンションですが、あれから結局僕は不良さん――有岡朱雀先輩とお付き合いを始めました。
それはもう清いお付き合いですよ。
先輩、見た目によらず結構純粋でした。
……萌え!!
朱雀先輩といると、なんか僕が穢れた人みたいで、本当にお付き合いしていいのか不安です。
だって、僕は先輩がいるにもかかわらず薄い本やパソコン、携帯で自分の萌えのために色々見てるんだよ?
なんか、本当に申し訳ない。
こんな穢れてる僕を、朱雀先輩はどうして好きになったんだろう……。
そこで、僕は初めて出逢ったあの屋上(といっても学校に屋上は一つしかないけど)に朱雀先輩を呼び出した。
そして現在、お昼休み終わって五限の時間、朱雀先輩を待ってる途中です。
僕と付き合って以来、朱雀先輩は真面目に教室で授業を受け始めたみたいで、こうやって先輩をサボらせるのは気が引けた。
でも、僕が「来てください」って言った時の先輩の顔が嬉しそうで、誘って良かったかな、とも思ってる。
いやぁ、ぼくって結構自己中だね!
「敏弘」
「ッ!?」
耳元で、突然バリトンボイスが聞こえてきた。
あれから何度も聞く、朱雀先輩の低い声。
朱雀先輩の声は僕の身体中を駆け巡り、僕の腰は砕けてしまった。
……うぅ、情けない。
「せ、先輩! び、ビックリするから耳元で囁くのはやめてくださいって言ったじゃないですか……」
「悪い。なんかずっと敏弘が考えごとしてて、最初は可愛いなと思って見てたんだが」
朱雀先輩は僕の頬に温かくて大きな手をそっと添えた。
「全然俺に気付かなくて、構ってほしくて声を掛けた」
……な、なんて可愛いんですか先輩!
可愛いのは貴方ですから!!
「で、敏弘。訊きたいことって何だ?」
「え、えっと……」
さすがに先輩は純粋で可愛いとか言えないよね……。
いつの間にか僕の背後に回って、ギュッと抱き締め始めた先輩を仰ぎ見る。
青空を背景に見る朱雀先輩は、紅い髪がよく映えていて、整った顔は僕を愛おしそうな瞳で見つめていた。
本当に、何で僕なんだろう。
どうして、僕を好きになったんだろう。
僕じゃなくても、朱雀先輩を好きになる人は沢山いるはずなのに。
僕は先輩の顔を見れなくなって、俯いた。
俯いた僕の頭に、朱雀先輩はそっと顎を乗せる。
体重は掛かってないから痛いとか重いとかはない。
でも、その優しさが逆に僕にはツラくて……
僕はとうとう、あの問いを口に出した。
「先輩は……朱雀先輩は、僕のどこが好きなんですか?」
僕の問いに、先輩は頭の上から顎を退けた。
自由になった顔を上げ、朱雀先輩を見る。
綺麗な紅い瞳(カラコンだそうだ)が、微かに見開かれ、驚きを表していた。
きっと、毎日先輩を見ている僕しか判らないぐらい微かな動作だった。
しばらく先輩は何か考えていたけど、やがてそっと口を開いた。
「どこが、じゃなくて、全部好きだから」
「…………え?」
先輩の答えは、僕を呆然とさせるものだった。
どこが、じゃなくて、全部!?
「顔も、目も鼻も口も、手も足も声も、ころころ変わる表情も、そして俺に見せてくれる全部が好きだから」
「な、何言って……」
「平凡と周囲は言うが、俺からしたらお前は可愛い。全てが愛おしいんだ、敏弘」
だから、そんな寂しそうな表情をするな。
そう言った先輩の腕の中で、僕はくるりと回転して、朱雀先輩の広い胸に顔を押し付けた。
熱く、赤くなった顔を見られたくなかったから――
「敏弘」
「……なんですか?」
「もしかして、俺が何もしないから不安だったのか?」
「へ?」
先輩の言葉に驚いて顔を上げると、そこには見目麗しい先輩の顔が眼前に迫っていました。
も、もしやこれは……!!
そっと口唇に触れた熱は、きっと五秒もなかったに違いない。
でも、僕にはそれよりずっと長く感じて……
「じゃあこれからは遠慮しないから、覚悟しとけよ、敏弘」
「…………ハイ」
相変わらずのバリトンボイスを聞きながら、僕は丸で茹で蛸のようになっていたのだった。
「どこが、じゃなくて、全部好きだから」
(それはズルイです、先輩)
※お題提供 Chien11さま