完結作品

□愛しい人は天然さん
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俺の想い人は、それはそれは可愛い人である。
まるで小動物のように愛らしく、暇さえあれば頭を撫で回したくなる。
茶色の短い髪は、何度撫でまわしても飽きない。
白い滑々の肌は、俺に触ってほしいと言っているかのようだ。
そして極めつけは、まるでルビーのような真っ赤で少し厚い唇から奏でられる――

「義鷹、どげんしたと?」

俺の名と、方言である。
想い人こと篤士は九州出身で、普段は標準語を話しているが、俺と二人になったときだけ方言で話してくれる。
これは俺に気を許してくれているのかと思いきや、まあ単純に寮の部屋が一緒だからなんだが。
たまたま篤士が方言で独り言を言っていたのを聞いてしまったのがきっかけだった。
理由はどうであれ、俺しか知らないというのは凄く嬉しいことだ。
篤士が方言で話してくれる度に、顔がだらしなくなるのは仕様がないと思う。

「よーしーたーか! オレの質問に答えんね!」
「え? 質問って何?」
「……時々、義鷹はオレの話、聞いてくれんよね。もしかしてオレってウザかと?」

身長差が二十センチ近くある篤士が上目遣いで俺を見上げると、それはもう可愛くて……!
俺は鼻血が出るのを必死に耐え、篤士の問いに答えた。

「篤士は全然ウザくなんてないよ。大丈夫」
「でも、時々ボーっとしとるやん」
「それは……」

それは貴方が可愛すぎるからですよ、篤士さん!!
一体可愛い貴方を目の前に、俺がどれだけ理性を総動員させて我慢していると思っているんですか!!
まあ、本音は言えないから嘘を言うしかないけど。

「それは?」
「篤士がこうして方言で話してくれて嬉しいなーって思ってるんだよ」
「嬉しい?」
「そう、なんか仲良くなれたなって感じがしてさ」

てか、俺、殆ど本音言ってるじゃん。
……いくら隠すためとはいえ、篤士に嘘なんか言えねーよ。
篤士は首を傾げていたが、どうでもいいのかそれ以上言及してこなかった。
ほっとしたような、悲しいような……。

「義鷹は、そげんオレが方言で話すとが嬉かと?」
「うん、すっごく嬉しい」

俺がそう答えれば、篤士は嬉しそうにはにかんだ。
え、何この可愛い生き物。
普通に鼻血が出てきた。
俺を出血多量で逝かせる気か……!?

「わ、義鷹!? 鼻血出よるやん! ティッシュは何処やったっけ!?」

俺の鼻血に慌てる篤士に、可愛いなぁと思いつつ大丈夫であると告げる。
それでも俺を心配してくれる篤士は本当に可愛くて、食べちゃいたいぐらいだ。
……俺、いつからこんな変態になったんだろうか。

「…………」
「ん? 篤士、急に黙り込んでどうした?」
「オレ……方言で喋らん方が良いっちゃなかと? だって、オレが方言で喋りよるときだけ、義鷹は鼻血出したり貧血起こしたりしよるやん」
「篤士……」

しゅんと項垂れる篤士を、俺は思わず抱き締めてしまった。
――ハッ!?
俺、今なにしちゃってんの!?
腕の中に、愛しい篤士がいる。
俺より小さく、そして少し震える華奢な篤士がいる。
……こうなったら最後まで言おうか?
俺は、篤士が好きだと――

「篤士、俺……」
「義鷹、また貧血起こしたと?」
「へ?」

突然腕の中から聞こえてきた声に、俺は間抜けな声を出してしまう。
あれ、今、篤士は何と言った?

「義鷹はただでさえ大きいっちゃけん、あんまオレに倒れんでよー。オレ、義鷹より小さいけん、支えきらんとよ」
「…………」
「ほら、肩貸してやるけん、ソファに行かんね」
「……ハイ」

俺より小さな可愛い愛しい人。
彼は天然ですが、それでも俺はめげません。
いつか想いが伝わる日まで、彼の隣にいようと思います。




愛しい人は天然さん
(それが可愛いんだよね)




*fin*

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