ゴウマンナイノリ

□キミイロセカイ
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僕の世界は、君で一杯だった。

君が傍に居て、笑っていてくれることが、僕の幸せだったんだ。



×キミイロセカイ×



僕達は胎内で共に形作られ、共にこの世界に生まれた。

けれど共に育つことは出来なかった。

何故なら、ほんの少しだけ彼女の方が先に生まれたから。

この国の古くからのしきたりで、王位継承権は男女問わず第一子に与えられる。

普通の姉弟ならば問題は無かったのかもしれないけれど、幸か不幸か僕等は双子だった。

どちらが王位継承者かわからなくなったり、誰かが陰謀に僕等を利用したり、王位継承のことで僕等が争わないように、と…僕は十歳まで、彼女の乳母の子どもとして育った。

会うどころか、彼女の顔を見ることすら無かったけれど、それでも母さん(本当の母では無くても僕にとってはこの人こそが母なのだ)が、家でいつも彼女のことを話してくれたから、僕はよく彼女のことを知っていた。

勿論、彼女が姉だということは知らず、同じ年の可愛いお姫様としての認識しか無かったけれど。

そのお姫様と顔を合わせることになったのが、十歳の誕生日だった。

豪勢な誕生日パーティーを翌日に控えたその日、自分の息子も明日が誕生日だと洩らした母さんに彼女は笑顔で言ったのだという。

「それならお前の子も一緒にお祝いをしましょう!その方が絶対に楽しいわ!」

母さんは慌てて断ったらしいが、彼女は聞かなかった。

当時はまだ存命していた国王にも王妃にも大臣達にも止められなかったという。

決定打は、乳母の子どもを呼ばないのならば、パーティーには出席しないという言葉だったとか。

パーティーにはこの国の貴族は勿論、様々な国から招待客が来ることになっていた為、パーティーを中止するわけにも、主役不在のまま開催するわけにも行かなかったのだ。

そして、あの日、僕等は出逢った。

パーティーが始まる少し前、彼女の部屋で王と王妃の立ち会いの元、美しく着飾った彼女を見た瞬間、走った得体の知れない衝撃。

暫く何を考えることも、何をすることも出来ず僕はただその部屋の入口に佇んでいた。

気付くと頬が濡れていて、それは僕を見つめている彼女も同じ。

どれ程の時間、そうして居ただろう、不意に彼女が走り出した。

両手を広げながら真っ直ぐ此方へと。

飛び込んで来た彼女を僕はしっかり抱き止めた。

彼女も僕の体を強く抱き締め、二人で暫くそのまま泣いていた。

僕等にはわかったのだ、誰に言われずとも、お互いがお互いの半身であるのだと。

いくら誰が何を言っても、彼女は僕を放さなかった。

僕も彼女を放す気は無かった。

立場や身分などは頭に無く、ただ漸く戻ってきた半身を失いたく無い一心で。

もう二度と引き離されたくは無いと。

そんな僕等の様子に観念したのか、王は王妃と顔を見合わせ、そして深く頷いたのだった。

そして、僕達は王や王妃や母さんから、事のあらましを聞いた。

僕はただただ驚くばかりだったが、彼女は違った。

一頻り大人達の話が終わるとすぐにこう言ったのだ。

「レンを一緒に住まわせて!一緒じゃないと嫌なの、嫌!」

その願いに困ったような顔をした王と王妃に、母さんも懇願した。

「お願いします!レンは王座等欲しがったりは決してしません。この十年、姫様の乳母の子どもとして私が育てて参りました。どうか──姫様のお側に置いてやって下さいませ!」

そして、僕自身も。

実の父と母、ではなく一国の王と王妃にお願いした。

「僕は、絶対に姫様を傷付けたりしませんから、どうか、お願いします。何でもやりますから、どうか。」

王と王妃は暫く話し合った末に、僕達の訴えを聞き入れてくれた。

こうして、僕は、王女付きの召使いとなったのだった。

「レン!」

その声に顔を上げると、リンの姿が見えた。

あの時のように、僕に向かって走ってくる。

違っているのは、彼女の顔に浮かぶ眩しい笑顔。

二年前に国王と王妃が事故で亡くなって、彼女は幼くして国の統治者となった。

しかし、その顔から笑みが失われることは無かった。

それは良い意味でも、悪い意味でも。

彼女のその屈託の無い笑顔は、間違いなく彼女の美点だ。

けれど、それは他の人々の様々な犠牲の上に成り立っている。

「リン、どうしたの?」

「私ね、好きな人が出来たの!」

ただ、僕にはわかってはいても、そんなことはどうでも良かった。

「へぇ…あ、もしかして僕のこと?」

「馬鹿ね、レンったら!全然違うわよ。」

僕は何を犠牲にしても、守るつもりだから。

「それは残念。…じゃあ、その君の心を射止めた幸運な人は誰かな?」

「秘密!…って言いたいところだけど、レンにだけは教えてあげる。……海の向こうの国の、カイト王子。」

「…成程ね。」

「でも、でもね、一番はレンなのよ?私、レンが居なくちゃ生きていけないもの。」

そう言って笑った、彼女を。

もう二度と、離れたくはない、失いたくはない、だから。

僕が、この手で彼女を守る。

何があろうと。

何をしようと。

「僕も、同じだよ、リン。」

君が、その笑顔が、僕の生きる糧なんだ。

fin


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