BLEACH

□憂鬱
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「・・・す・・・凄いなあ・・・」

部屋の中の乱雑された書類の山と見た事もない様な大掛かりな装置を見上げ冬獅朗は小さく呟いた。

「あははは・・・すんません、散らかってて・・・適当に座っちゃって下さい。って

言っても座る場所もないっすねえ、その辺の書類重ねちゃって平気っすから、どうぞ。」

喜助は近くの書類を束ねながらそう言って 椅子を一つ空けた。

「以前、十二番隊の隊長だったと聞いている。

今も涅隊長は訳の解らぬ実験を重ねているがあんたも同じような事をしているのか?

浦・・・原さん・・・」

冬獅朗は目の当たりにした奇々怪々のシロモノと点在された書類に何度も目をやりながら言った。

「まあ、そんなもんです。あたしみたいなもんは力はありませんからねえ・・・」

そう笑いながら言った喜助の霊圧がどれだけ大きいかを冬獅朗は悟っていた。

そして視線を喜助に戻し大きな瞳で真っ直ぐに顔をあげた。

「・・・その前に・・浦原さん・・」

少し躊躇う様に声にした冬獅朗の言葉と水色の済んだ瞳が喜助の視界にドンと飛び込んできた。

「・・・なん・・・すか?」

振り返った喜助は瞬時に冬獅朗の後ろに立つ龍氷を見た。

喜助の一瞬止まった視線に気付いた冬獅朗はその大きな瞳を一度だけ軽く閉じた。

「すまん。気を悪くしないで聞いてもらいたいのだが。」

「・・・はい。」

「今、あんたオレの後ろに龍を見ただろう?」

「・・・ええ・・・」

「そうか・・・あんたにも見えるのか・・・

こいつはオレが物心ついた頃にはもうオレの中に居たのだ。」

「隊長さんの中・・・ですか?」

「ああ・・・オレ自身気付きもしていなかった。松本に指摘されるまではな。」

「乱菊さん・・・?」

「ああ・・・何度もオレを呼ぶ声を聞いていた。幼い頃はそれはただの夢だと思っていた。

ざわついていて叫ぶその声を聞き取れずにいた。ただの悪夢でしかなかったのだ。

松本に出会うまでは・・・松本がオレを救ってくれたのだ。

自分が気付かずにあのまま流魂街で暮らしていたのならオレはどれだけの人を殺めてしまっていたかわからん・・

この声をオレは聞き取る事が出来ず、知らず知らずに多くの犠牲を伴っていただろう。

だが、今ではオレはこの龍と共に戦ってる。こいつの声を耳にする事が出来てからは・・・」

冬獅朗の言葉を喜助は理解していた。

「共存ってやつっすか・・・」

「ああ・・・オレが生き延びる術は共存でしかなかったのだ・・・」

―この人は・・・本当は普通に流魂街で慎ましく暮らして居たかったんだ・・・

望まざる力を生まれ持って手にし、望まざる戦いにこの身を投じていたんだ・・・

喜助は冬獅朗の心に僅かに触れた様な気がした。

―だから・・・この人の心には強い悲しみが存在するのか・・・

痛みを知るからこそ・・・

強いのだ・・

「すまん、あんたに聞きたい事がひとつだけあって出向いた。」

冬獅朗の水色の大きな瞳は真っ直ぐに喜助を見つめていた。

その意を決した心の鋭さは並大抵のものでない事も喜助にはわかっていた。

「はい・・・なんでしょう・・・・」

「大気中にある全ての水がオレの武器となる。あんたが今作ろうとしているその異次元空間は

大気そのものをも移動する事が出来るのか?」

冬獅朗の問いに喜助は微かなる不安を感じ取った。

―何を恐れているんだ・・・・この人は・・・

「ええ・・勿論です。大気ごとすべてを現世に置き換え 尸魂界を貼り付けます。」

「そうか・・・それなら・・・よいのだ。邪魔してすまない。」

冬獅朗は軽く会釈するとすぐさま踵を返して歩き出した。

「日番谷隊長・・・」

その姿に喜助は声をかけずにはいられなかった。

ゆっくりと振り向く冬獅朗の背にはものの見事に氷の龍が映っていた。

「これは・・・あたしの戯言ですから・・・忘れてもらっていいっすけど・・・」

「なんだ?」

「もし・・・水を操る奴が今度の相手だったとしたら・・十分に気をつけて下さいよ。

その・・・何と言うか・・・相手の心の痛みは・・・いえ・・・

同じ系列同士の戦いはなにかとやりずらいっすから・・・」

「・・・承知した・・・」

冬獅朗は僅かに口元に笑みを浮かべたようだったが

静かに瞼を閉じた後 再び背を向け歩きだした。
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