DEATH NOTE

□奏であう心
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シャワーの温度を少しだけ低く設定した夜神は頭から伝わる水滴の流れを追っていた。

上から下へと・・・自分の身体を伝って落ちていく。

同じ経路を辿るものもあれば新たな経路をつくるものもある。

人の生き方に似ているとふと感じた。

作られた経路を辿るのは容易い。

敷かれたレールを進む事はより安全でより確かだ。

結局同じ場所に辿り付くのなら無理無駄の無い安全な経路で進む方が確かなる選択と言えよう。

果たして辿り付く場所とは、何を持ってゴールとするべきか。

さっき歩きながら聞いていたニュースの報道が夜神の頭をかすめた。

三十代半ばで倒れ死に到ったスポーツ選手のニュースだ。人は死をもってゴールとするのだろうか。

夜神は漠然と人の死を受け止めていた。

まだ、夜神の近親にはこういったケースが無かったからなのかも知れない。

ふとミサの顔が浮かんだ。

―ミサは死んだ。

夜神がその事実について心を動かす事はなかった。

それはきっと竜崎が興味がないと言った言葉以上に。

それどころか、この煩わし報道を考えなければ開放されたという嬉しさで今にも踊りだしたい気持ちだった。


ミサとの出会いはある事件が発端だった。

罪人が次々と病死していく。

それは神の仕業とでも言うしか結論付ける事が出来ないような事件。

こんなに面白い事件を夜神と竜崎は放っておくわけが無かった。

早速あの手この手で多くの仮説を立て犯人探しのゲームを楽しみだしたのだ。

神の裁き、世論は面白可笑しく記事をでっちあげ専門家と称する胡散臭い奴らが雄弁と語っていた。

そんな時に夜神の前に突然現れた女。

それが弥海砂だった。

田舎から上京しモデルになったと言っていたなんの変哲もない女の子。

しかし 名が売れ始めた矢先、彼女は突然全国ネットで放映中の生番組で夜神月の名を出し恋人宣言をしたのだ。

夜神自身も何が何やら解らない状態のまま殺到する取材がつめかけ慌てていた。

そうした数日後 本人からの連絡を受けたのだ。

待ち合わせの場所に行ったが結局誰にも会えず家に戻ったところへ電話が鳴った。

そしてミサは言ったのだ。

「やっぱり月(ライト)は思っていた通りだったね。誰か殺して欲しい人はいる?」

と。


冗談にしては面白くないと告げるとミサはつまんない、と言った後にこう次げた。

「じゃ、明日の十時に 連続暴行魔として逮捕されている椎名と言う男を殺してあげる、

それならミサの事信じてくれる? 月(ライト)は絶対に神になれる人だよ。」

夜神はいい加減にしろ、と電話を切ったが翌日、椎名と言う男が獄中で自殺したと緊急報道が流れたのだ。

その後も ミサが予告した犯罪者は次々に死んでいった。

偶然の一致か、夜神はミサの言動を疑わしく思いながら

それらの事件には酷く興味を掻きたられミサを無視する事が出来なくなっていた。

「あたし死神の目を持っているのよ。」

そう言ったミサの顔を忘れる事はなかった。



死神の目とはいったい何なのか、ミサの話は何処までが現実で何処からが空想なのかさえわからなかった。

月(ライト)の言った通りに何でもしてあげる、そう言ったミサの本当の目的がいったい何であるのか、ミサと言う女性は何者なのか。

警察の情報にハッキングしても弥海砂と言う女性は田舎町出身のただのモデル以外何も無かった。

戸惑いながらも夜神は恋人宣言を利用したままミサとの付き合いを始めた。

成り行きではあるが死神の目の秘密を探る為に。

「つまんない!なんでいつもこの人いるの?」

ミサはいつも二人の後を猫背で付いてくる竜崎を指差して言った。

「こいつは竜崎、気にしなくていいよ大学の同級。」

「へえ〜 竜崎って芸名使っているの?」

ミサはそう言って竜崎を見つめた。

「ああ、芸能人みたいだろ?」

夜神はそう言って笑っていたが 竜崎は大きな飴玉を咥えながらミサの視線を追った。

そう、自分の目線より少し頭上で泳いでいるその視線を竜崎は感じとっていたのだ。


それからもミサが名を告げた罪人は亡くなっていった。

此処まで来るとミサが本当に殺しているのかも知れないなどと悪戯に考えた事もあったが

それでは納得などいく説明が付くわけなどなく ますます混乱するだけだった。

夜神と竜崎はいつもその事について語り合っていたが、どんな仮説を立てようとも成り立つ事などなく

一例二例は当てはまっても全部の犯罪に共通する痕跡など探し出す事など出来なかった。

そう、死因に心臓発作が多いというくらいの現状把握でしかなかったのだ。

「ねえ、いつになったら信じてくれるの? 全部ミサがやっているのに!」

たまにいい加減に黙っていろといいたくなる夜神だったが、

ミサの言う死神の目の事を聞きだすまではどうしても傍に置いておく必要があると考えていた。

しかし、見た目とは違って、どんなにおしゃべりをしても死神の目の事だけはミサは決して話そうとしなかった。

夜神はミサの話す内容をあまり考慮せず真実だけを見つめようと努力した。

それから半年もたたないうちにミサは突然死んだ。

何の前触れも何の言葉も残さず。

犯罪者と同じ心臓麻痺で永眠した。

そしてそれをきっかけにパタリと罪人の死も止まった。


ミサが亡くなる前日に竜崎の元を訪れていた事を夜神は知らなかった。

「あなたの本当の名前は・・・・」

竜崎の瞳が動いた時ミサは笑って去って行ったのだ。

「大丈夫。誰にも言わないよ。だから月(ライト)のずっと友達でいてあげてね。それは最期のあたしの望みだから。

でも残念だったなあ〜月(ライト)はこれからの世界を変えていける人なのに・・・全然私を信用してないし・・・

でも、いいや、最期に月(ライト)と一緒に過ごせたし。」

そう言って。

ミサの言葉を竜崎は夜神に告げる事は無かった。



バスタオルで頭を拭きながら夜神がバスルームから出てくると、竜崎はパタンとノートパソコンを閉めゆっくりと立ち上がった。

「夜神君、いつもより五分も長かったですよ。考え事でもありましたか?」

夜神とすれ違い様に竜崎はそう言ってバスルームへと消えて行った。

―僕の費やしたその五分で君は出てきてしまうけどね。

夜神はふと笑いながらそう呟いた。



軋むベッドの音だけが部屋中を支配していた。

時折漏れる吐息が妙に夜神の耳に残った。

夜神が竜崎を抱くにはそう時間はかからなかった。

竜崎がこういった事に慣れているのか、あまり気にもしていなかったのか、わからないままこういった時間を過ごす様になっていた。

夜神が悪戯半分に竜崎に口付けした時も竜崎はなんの抵抗もなく口付けを返してきた。

そう、まるで単なる挨拶であるかの様に。

それは英国での生活が長く、当たり前の事だったのかとその時は夜神もそう受け止めていた。
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