DEATH NOTE
□奏であう心
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ミサが亡くなり犯罪者の死亡も無くなりいつしか二人の興味もこの事件に関して薄れていった。
時折竜崎は ミサが言っていた死神の目について考える事もあったが、
自分の本当の名前を知っていたのも何らかの手段で偶然情報を手にしたのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない。
でもミサが亡くなった今となっては全てが藪の中。
死神の目と言うものが本当にあったとするならこの目で確かめてみたいとも思うが あくまでも憶測と想像の範囲を超える事がない。
その産物は実在するものでありながら真実ではないのかも知れない。
夜神の興味が絶たれたと同時に竜崎の興味も必然的に薄れていった。
ただひとつ、どんな手立てを使っても絶対に世間に出る事はないはずの自分の本当の名をミサが知っていたという事実だけが永遠の謎として残った。
やがて二人は共に犯罪心理について多くを語り合う毎、未解決とされるケースを集め犯罪者の心理を探る事に没頭し始めていた。
語り合うだけでは二人の論議は必ず成功に至り事件になり得なくなる事に気付いた二人は
犯罪には事件として報道されるに至るなんらかの心理が動く事に辿り付いた。
人は失敗を犯す。
だから完璧な犯罪では在りえなくなるのだ。
それは犯人が捕まる、捕まらない、の問題ではなく、その犯罪が事件として成り立ってしまうといった結果を意味する。
完璧な犯罪なら事件としてすら取り扱われる事なく闇から闇へと葬られる結果となるのだ。
未解決といえども事件として成立したケースには犯人のどんな心理が作用して
発覚に至ってしまったのか、二人の興味はもっぱらその事に集中していた。
あるケース、撲殺とされる死体が発見された。
容疑者として上げられた妻、そして強盗、証言者も数名いた。
しかしどれもこれもが成立しない説明、妻も強盗も目撃者も全ての人間が各々の保身の為に嘘をつく。
殺されたのか、自殺なのか、証言者も一転二転と証言を変えてしまった。
死体と言う結果があるのに真相は闇の中。
二人はこのケースに酷く興味を抱いた。
証拠と矛盾する証言、傍観者として結論が出なくなった二人は互いを当事者として演技する事で事件の再現を始める事にした。
「まずは妻と強盗から始めてみるよ、竜崎、君が殺害された人の妻を演じその真意を探る、そして僕は押し入った強盗を演じる。」
「・・・ん・・・いいでしょう。解りました。でもこの場合妻は殺害されたとされる夫を愛していたと仮定したケースと
愛してはいなかったとするケースとで二回ほどやってみるのはどうですか?」
「・・・妻が夫を愛してはいなかったと思う君の根拠はなんだい?
二人はすこぶる仲がよく、近所からも不仲説は生まれてはいないはずだよ。」
「ええ・・・ただ、私は人の心はいつどんな時にでも変わらないなんて事を信じてはいないだけです。」
「そう、竜崎らしいね。解った。では君の言った二つのケースで考えてみよう。」
夜神は時折 人間全般を信じていないと言う体勢を変えようとしない竜崎の心が
本物であるのか其れこそが虚偽であるのかわからなくなる事があった。
なぜならきっと竜崎より夜神の方が人間を信じていないと言う事に関してはうわて、であると確信していたからだ。
「夜神君? 始めましょうか。」
少し間をおいた夜神に躊躇う様に竜崎は声をかけた。
「・・・ああ、じゃあ、僕が強盗で妻を襲う所から始めよう。この時夫は殴られ即、無抵抗となるわけだから
夫はその姿をただ、漠然と傍観している状態だ。」
「解りました。では、本気でいきますよ。」
「乗ってきたね、竜崎。」
夜神は竜崎をキッチンに立たせ自分は玄関へと移動した。
「ブザーが鳴った、妻はキッチンから玄関へと移動する。」
片手に事件の進捗を書いたノートを持ち夜神が竜崎に声をかけた。
すると竜崎はのそのそと玄関まで現れた。
その猫背の姿が妙に可笑しかった。
夜神は竜崎を一揆に突き飛ばした。
ドスッと後ろ向きで倒れた竜崎は這うようにして居間へと移動する。
「現れた夫を一撃で殴りつけ夫は一瞬気を失う。」
夜神が竜崎の上に跨りながらノートの文字を読んだ。
竜崎は夜神から逃れようと必死に暴れる。
「動きすぎだ、竜崎!」
「いや、本気でやらないと妻の心情は読み取れませんから。」
あまりにも抵抗する竜崎の頬に夜神は一発平手打ちをした。
一瞬、竜崎の動きは止まったが再び必死の形相で逃げようともがき出した。
夜神は少しやりすぎたかとも、思ったが逃げ惑う竜崎を 屈伏したいと言う気持ちが腹の底から沸き起こっていた。
妙な感覚だった。
夜神の顔はいつもに増し冷酷な顔つきとなり竜崎の細い両手首を頭の上で一つにまとめて押さえつけていた。