BLEACH

□鋸 草 
1ページ/3ページ




「はい、どうぞ・・・・」

「・・・あ・・・わりい・・・・」

「いいえ・・・」

一角は僕が差し出した箱から数枚のティシュを取り出しその箱を軽く投げ返した。

取り出した数枚のティッシュで背を丸めながら拭いている一角の姿に僕はちょっとだけ笑えた。

「おい、お前はいいのか?」

「ん、僕はシャワー浴びるから。」

僕のその言葉尻に重ねるように一角がクスッと笑った声がしていた。


コックを捻ると勢い良くシャワーの水が僕の身体を直撃した。

少し冷たいけど 今は何故か心地いい。

そう・・・

火照った身体には丁度いい・・・・

すぐさまシャワーの真下に身体の位置をずらし頭からその冷たさを感じた。

冴え渡る・・・・

ぼんやりとしていた身体を促す様に頭の中がすっきりしていった。

―・・・・ああ・・・

ふと、足元にヌメヌメとした白い液体が身体を伝って降りていった。

バイバイ・・・

その液体が排水溝へと流れていく様を見送りながら僕は心の中で呟いた。

少しだけ腹に力を入れると再び白い液体は足を伝った。

ふと、ボディーソープに手をかけた自分の手首に目が止まった。

赤い跡がくっきりと残っていた。

もう一つの手首にも同じ跡。

ちょっとだけため息が漏れた。

―縛らなくたって・・・逃げやしないのに・・・

一角のやる事の意味を考えていたら身が持たない。

だから、敢えてこの事について尋ねたりはしない。

一角が何故僕を縛るのか・・・なんて。



僕はずっと一角だけを見てきた。

子供の頃に知り合った時から・・・ずっと。

喧嘩だけが一角の気持ちを和ませていた事も僕は知っていたんだ。

一角には何も無かったからね・・・・

まあ、僕も同じようなものだけど・・・

僕らは流魂街でも無法地帯と呼ばれる区域で育った。

弱いものはその容を失くし魂を塵とし魂珀になるだけのこと。

何処から来て何処へ行くかなんてサラサラ興味も無かったし、食べ物が欲しけりゃ盗むだけ。

喧嘩が強くて逃げ足が速ければこの町でも生きていける。

ここで生きていく為にはそれだけが唯一の条件だからね。

一角は誰よりも強かったし、僕は何もしなくても一角の傍らで一角のやる事を見ていればそれだけで生きていけた。

なぜ、一角が僕を傍におくのか・・・

その事だけがあの頃の僕の謎だった。

・・・いや、それは今も変わりはないか・・・


温まってきたシャワーのコックを止めて僕は大きめのタオルを肩からかけドアを開けた。

一角はこちらに背中を向けたまま横になっていた。

―寝てるの?

そう思ったけど僕の気配に気付くと一角は首だけで半分振り返った。

「オレも浴びるかな〜」

「そうだね、その方が気持ちよく寝られるさ。」

僕はタオルで頭に残った水滴を拭きながら冷蔵庫のドアを開けた。

喉が渇いていたから。

―あれ? この奥に冷酒のいい酒を入れておいたはずなのに・・・

先日乱菊さんからもらった 貴重な種の酒を冷蔵庫の奥に隠し入れておいたはずだったのだ。

「一角? また飲んじゃったの?」

犯人はこいつしか居ないはず・・・・

振り返ると一角はニヤリと笑いその手には小さめのコップが握られていた。

ふう〜

まったく、こいつにいい酒なんて飲ませるのはもったいないから隠す様にしまっておいたのに・・・

普段、目の前のものしか見えない奴がこういった類のものを見つけるのは早い。

野生の勘が見事に働くらしい。

射場さんと一角に飲ませる酒なんて絶対質より量なんだからいい酒なんていらないのに・・・

「その酒、乱菊さんから貰ったいいやつだったのに・・・なんでそんなコップで飲むかなあ〜」

「酒なんて何で飲んだって一緒じゃねえか・・・」

これ以上の問答は一角には無用。

僕はただ肩を落として新たなる隠し場所を考えるしかないんだから。

「シャワー浴びておいでよ、それ返して!」

残った酒瓶を一角の手から取り上げ背を押した。

「へいへい・・・・」

一角はその形のいい尻と逞しい背筋を見せびらかすように僕の前を通り、シャワー室へ消えていった。

僕は半分残された酒を冷酒用のコップに注ぎ口にした。

掌から顔を覗かせる透かしガラスには淡いピンク色をした桜の花びらを模った模様が散りばめられている。

 少しだけ高めにグラスを上げライトに照らせば中の酒が揺れゆらゆらと花びらが舞う。

 僕はその美しい姿に少し嫉妬した。

 酒は切れ味がよく、さらっとしていて口当たりがいい。

乾いた喉をすっと潤してくれる。

瓶を再び冷蔵庫の奥へと入れたとき、手首に付いた赤い後がまた目に入った。

僕は冷蔵庫を閉めて左手首をぐっと掴んだ。

シャワーの流れる音が響きだしていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ