BOOK

□零度の蕾
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やっと涙が引いた頃、もう空は夕焼けになっていた。





未だ何も解決していない自分の感情。





…帰ろう。

もう一度ゆっくり考えるべきかもしれない。





「…あ、」





ふと両手を見ると、鞄がない。





そういえば私、そのまま屋上に直行してしまっていて
鞄はきっと教室に…。





はぁ、とひとつ溜息をして教室へと足を向かわせた。




一歩、一歩、教室へ近づいていく。

階段を下りた時、何故だか酷く嫌な予感がした。

緊張して、足取りが重くなる。

あと数メートルという距離まで近づいた。







教室から声がする。






入りづらくて、ドアの隙間から中を覗う。






そこには――…。

















「…み、ずき…ッひな、た?」





一番逢いたくない相手が居た。




周りには2,3人の女子。





あの日感じた胸の高鳴り。

それを抑えるために呼吸を整えた。




小さく息を吐く。

とりあえず落ちつくべきだ。





なんで胸が高鳴るとか
そういうことはもう考えてなんかいられなかった。




ただ、この状況に冷静でいられなかった。





「ねぇ、陽太くんて、逢坂さんと話さなくなったよね。」




女子のうちの1人の声が聞こえる。

ドキリと更に鼓動を感じた。




「だよね。何かあったの?」




聞いてはいけないと分かっているのに
いや、そもそもこんなこと関係ないのに。

聞かずにいられない。




「蕾ちゃんとは――…」





ガタッ





「―ッ」




不注意でドアに足をぶつけてしまった。

…なんてベタなことをッ。




「蕾、ちゃん…!?」




知らぬ間に走り出していた。




鞄なんてもうどうでもいい。

とにかくあの場から逃げだしたかった。




止まったはずの涙がまた溢れ出る。




まるで少女漫画みたいな展開。




くだらなくって、いつもの私だったら嘲笑っていたんじゃないだろうか。




だけど、涙が溢れた。




それはきっと、私がいつもの私じゃないから。




















水城陽太に、恋をしてしまったから。








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