BOOK

□零度の蕾
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関わらないでと言っておきながら
どこかで求めていた存在。





笑顔を嫌々に想いながらも
どこかで安心感があった。





だから、
そんな存在がなくなって
私はまた弱くなってしまった。





一日でこんなに変えられてしまった。





それだけ水城陽太の存在は大きいんだと、今になって想う。






「…やっぱり、ここに居た。」






「…。」





少し聞くだけでドキッとするその声。




誰だかなんてすぐ分かるその声。





「蕾ちゃんはいつも屋上に居る。」





そう言って水城陽太はあの日のように私を上から見下ろした。





「小学校の時もそうだった。
蕾ちゃんは大抵屋上に居た。」





ふっと降りてくる視線がなんだか怖くて





「…待って!」





逃げだそうとした私の腕つかんだその手。

その手からぬくもりを感じて、顔が赤くなるのが分かった。






「俺が蕾ちゃんに惚れた時も屋上だった。」






「は…?」





訳が分からない。





「蕾ちゃんが放課後、屋上に一人で居て
じっと夕焼けを見てた。
しばらくして、俺の存在に気づいて…」






グイッと掴まれた腕を引き寄せられる。





「笑ってくれた。」





気づけばすっぽり、水城陽太の腕の中。





「なッ…。」






恥ずかしさとか驚きとか
いろんな感情が入り混じってよく分からない。



そして驚きのせいか、涙は止まっていた。





でも、



「蕾ちゃん、好きだよ。」





ただ、その一言が嬉しいのが分かった。





「蕾ちゃんは、俺の事どう想ってる?」





ぎゅっと抱きしめられる力が強くなる。






「…好き、です。」





私は何を言ってるのだろうか。

思考回路は正常になど働いていないはずだ。





バッ




「ちょ…ッ」




水城陽太が私を身体から引き離す。




じっと見られる紅く染まった私の顔。





そして笑ってこう言った。





「蕾ちゃんは、やっぱり何も変わってない。
昔の優しくて照れ屋な蕾ちゃんだ。」





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