BOOK

□零度の蕾
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教室に戻るのが怖いとかそういう感情は無かった。




ただ一つ気がかりなのは、水城陽太の隣だということ。




ガラッ




朝と同じく…いや、朝よりも酷い空気が流れた。

誰もがこちらに視線を向けている。





ああ、面倒くさい。

さっさと席に座ってしまおう。





そう思い、私は自分の席に座った。





隣の席にはあの時と同じように水城陽太が座っていた。





でも、あれだけ言ったんだ。

下手に絡んでは来ないだろう。





昔の私だったら喜んでいたかもしれないけど
今の私からしたらただの迷惑。






「つーぼみちゃんっ。」






…幻聴?

そうだ、絶対そうだ。






「おーい、聞いてる?」





はぁ…。





「いい加減にして。迷惑なの。」





「そんなにはっきり言わなくても。」





「何か問題でもあるの?金輪際関わらないで。」





「ふーん。でも、約束は約束だからね?」





流石に私は何も言えなかった。

過去とは言え、自分の過ちに口は出せない。





まぁいい。

私は机の中から教科書を取り出した。

そして、そこから何も言葉は発さなかった。





こいつには、何を言っても無駄だ。






*   *   *   *   *





昼休みも同じく、私は基本的に屋上に居る。

休み時間や授業のサボリもそうなのだが、
昼休みは休み時間に増して教室がうるさい。

屋上も中庭や校庭ではしゃぐ声が聞こえて、正直静かとは言えないけど。





だからそれなりに屋上は気に入っていた。





…だけど。





「蕾ちゃん、見っけ。」





何でこいつは、私の邪魔ばかりするのだろうか。





いつものように購買でパンとジュースを買った後、屋上に向かった。

そして日陰に座ってジュースの蓋を開けた。

ここまではいい。




そして私がジュースを一口飲もうとして上を見ると、何故か水城陽太が居た。





「蕾ちゃんって、休み時間どこに行ってるのかと思ったら屋上に居たんだね。」





これは爽やかな笑顔だろうか、企みの笑顔だろうか。

とにかくにこりと水城陽太が笑った。





「ここ、立ち入り禁止なんだから先生に見つかったら怒られるよ。
だから一緒に教室行かない?」





そう言って水城陽太は私の手を取り、自分のほうに引っ張った。






「…ッ!!」






座っていた私の身体はすっと真っ直ぐに
立っている水城陽太の身体へ引き寄せられる。






「俺、蕾ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なんだよね。
本当は離したくない。だから行こ?」






そう耳元で囁かれる。

思わずドキッと胸が高鳴った。





「離して…ッ」





水城陽太の胸を押しのけようとしたけど、
手を強く握られていて逃れられない。




「蕾ちゃん、なんでそんなに俺を拒むの?」




一瞬、身体が固まる。

動こうと思うのに、何故か身体が言うことを聞かない。




「理由があるなら聞くから。
俺は蕾ちゃんの力になりたい。」





「…ッ!!!」





さっきとは違う胸の高鳴り。




身体が自然と震える。





“私は蕾の力になりたいな”

“だからもっと頼ってよ!”






嫌だ…。





「力になりたい…?馬鹿なこと…言わないでよ…。」





震えながらも私は初めて、水城陽太と目を合わせた。





「蕾ちゃん?」





「どうせ…裏切るんでしょ?
だったら最初から、関わらなければ…いい。」





私は何を話しているんだろう。

この男に離す必要なんてないはずなのに。





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