BOOK
□零度の蕾
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すべてを話し終えた時、水城陽太は私をじっと見ていた。
「…これでもまだ何かあるって言うの?」
流石に堪えたんじゃないのか。
「これで分かったでしょ?私はあのころとは変わったって…「いや、蕾ちゃんはあの頃のままだ。」
遮るように言葉を発する。
「何、言ってるの…?」
「蕾ちゃんはあの頃と同じだ。
あの頃の優しい蕾ちゃんのままだ。」
「そんなこと…ッ」
なんでそんなことが言えるの。
「だって蕾ちゃん、言葉では拒否してるけど
現に今、俺と話してる。」
何が、言いたいの?
「本当に嫌なら、教室で女の子に注意されても無視して行っちゃうはずじゃないの?
それなのに俺に素直に名前を言ってくれた蕾ちゃんは
ちょっとは変わったかもしれないけど、根はあの頃のままだ。」
そう言って私に笑いかける。
その瞬間、何故か心臓が止まるんじゃないかってくらい高鳴った。
どうしたの、私。
水城陽太と居ると、いつも自分が保てなくなる。
簡単だったでしょう、人と関わりを持たないってことは。
どうして…。
「…本当に、変わったの。
お願いだから関わらないでよ!!」
気づけばたまらなくなって屋上を飛び出していた。
短いはずの階段は長く感じて
降りていく間も高鳴りは止まらなかった。
高鳴りは私の不安を煽るようにおさまる様子がない。
…こんな自分、私は知らない。
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あんなことがあったというのに
教室の風景は何も変わっていない。
あんなこと、と言っても私だけの問題。
何も変わらない教室を見て、更に自分が孤独に見えた。
しばらくすると水城陽太も教室へ入ってきた。
当たり前だけど、私の隣の席に座る。
でも水城陽太は私に一切喋りかけなかった。
それだけじゃなく、一切私の方を見ない。
それが酷く切なく感じて、そう感じてしまう私が私自身じゃない気がして、
その時の授業は全く耳に入ってこなかった。
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