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□零度の蕾
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担任が出て行くのと同時に、男女数人が水城陽太の席に集まった。

そしてお決まりであるように質問攻めが始まった。





「水城くんっていつぐらいまでこの辺りに住んでたの?」

「ていうか、何で引っ越したんだよ?」




「小学校高学年の頃までだった気がする。
家の都合で少しここから引っ越してただけ。」





へぇ〜と特には何も言わず、答えを聞くクラスメイト達。




これから長く質問が続きそうだ。



私は屋上に行くために席を立った。

屋上は立ち入り禁止だが、鍵が脆く入るのにそう困難はなかった。

立ち入り禁止のため、人も来なくて静か。

まさに絶好の場所だ。




大抵の生徒は私の行動なんて気にしないだろう。

もともと一人なのだから。

勝手な噂のためか浮いているだけ。




だから、今日もすんなり屋上へ行けると思っていた。





「あ、待って。」





この男が、私に喋りかけなければ。





「逢坂さん…だっけ?名前、なんて言うの?」





予想通り、クラスメイト達は驚いたような顔をしている。




面倒なことになった。

…けど、ここで私が無視をしても何の問題もない。

私が水城陽太に偏見を持たれようが、関係ないのだから。




ふっとまた歩き出そうと前を向く。






「ちょっと、それはないんじゃない?」





質問攻めをしていた中の一人が私に向かって言葉を投げかけた。





「無視は流石にないんじゃないの?」





振り返るとクラスメイト達は私を軽蔑するかのような眼差しで見ていた。






「…蕾。逢坂、蕾。」





面倒くさそうに私は呟いた。

全く、厄介だ。




すると少しずつ水城陽太の表情が変わっていく。




「逢坂…蕾…?…蕾ちゃん!?」





…は?




蕾ちゃん…?





さっきまで私を睨むように見ていたクラスメイト達はまた、驚いたためか何も言葉を発さなかった。





「覚えてないんだ?
俺だよ、小学校の時一緒だった!」






小学校…。

水城陽太…。





「あれ、本当に忘れてるんだ?
…そうだ、あれなら覚えてるでしょ。」





そう言って水城陽太はニヤッと不快に笑う。






「キスしたこと。」





「ッ!?」




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