BOOK
□理想と現実と私
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私は喫茶店の窓越しから颯太さんを眺めた。
颯太さんはこちらに向かって歩いてくる。
「大変、片付けなくちゃ。」
私はテーブルの上に無造作に置かれた3、4枚の皿を重ねて隅に寄せ、
氷が溶けて薄くなったカルピスを一口飲んだ。
カランッ
扉が開く音がした。
冷静かつ何事にも動じないその目で、その綺麗な顔立ちで
真っ直ぐと私の近くのテーブル席に座る彼。
その姿を見るだけでも、幸せで仕方ない。
それにしても、私は本当に幸せ者だ。
こんな素敵な彼氏が居て、こんなに彼を眺めることができて。
偶然か必然かなんて分からないけど、…毎日会える。
この上ない幸せがあるだろうか。
ぼんやりとそんな事を考え、ゴクリとカルピスを飲み干す。
かろうじて残っていたであろう小さな氷が
滑るように口の中に入ってくる。
それを飲み込んで、私は再び颯太さんを見つめた。
ああ、なんてかっこいいんだろう。
「…大好き。」
ふいにそんな言葉が唇から零れた。
* * * *
数日後。
とある日の夜、急に思い立って
私は颯太さんのマンションを訪れた。
颯太さん、居るかな。
淡い期待を胸にエレベーターのボタンを押す。
…あ、電話してみようかな。
でも颯太さんってばいっつも照れて出てくれないのよね。
思い切って突然訪問にして脅かせちゃおう。
ピーンポーン…
エレベーターの扉が開いて、一歩踏み出した時。
「…だ、れ?」
目の前で平然と、部屋から出てくる女。
…颯太さんの、部屋から。
見たこともない女。
年齢からしても、颯太さんの姉とか妹とか母とか…親戚ではなさそう。
その女は何も動じず私の前を過ぎて行く。
「…ッ」
私は思わず唾を呑んだ。
後ろでエレベーターの扉が閉まる音がした。
見てしまった。
見てしまった。
見てしまった!!!!!!
「なんで、あの、女が、颯太さんと同じ、ゆび、わ、を…?」
頬を涙が伝う。
留まりなく伝う。
溢れ、流れ、また溢れ。
涙が流れていくうちに
だんだんと
心にモヤモヤとしたものが溜まっていった。
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