BOOK

□理想と現実と私
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おぼつかない足取りで颯太さんの部屋の前まで歩く。




この扉を、あの女が触り、開けた。

そして、敷居を跨ぎ、部屋へ入る。

その、先、は…





「あ、うあ、あああああああああ!!」





おぞましい。

気持ち悪い。

吐き気がする。









くるりと振り返って無我夢中に走る。




エレベーターなんて待ってられない。

階段を駆け降りる。



マンションを出て、また少し走る。





「居た…は、はは、はぁ…」





数M先には先程の女。




私は再び走った。

頭には、怒りしかない。




ガッ…




「きゃっ…」




肩を掴み、無理やりこちらを向かせる。

反射的にか、女は脅えたように小さく声をあげた。




「え…あの…誰…」




私の顔を見て、震える声で尋ねてくる女。




何も分かっちゃいない。





むかつくむかつくむかつくむかつくむかつく。




憎い。

憎くて仕方がない。




私は女の手を取った。




「ちょっと、何するんですかっ…」




女の言葉なんて耳に入らない。




「こんなもの…っ」




憎しみの混じった低い声で呟いて、女の指に光る小さな指輪を睨んだ。

颯太さんと同じ、ペアリング。




グッ




「痛いッ…やめ、きゃああああ!!」




女は叫び声に似た、甲高い声を出した。



それでも私はやめない。

ただ、憎くて、女の指に光る指輪を引き抜こうとした。




カランッ…




何かが落ちる音がした。




「…やっと抜けた。」




私は小さく呟いて、地面に落ちた指輪を拾う。




「なんなのよ…あんた!!こんなことして…っ!!」




指輪を付けてあったほうの手を握り、
私を意味が分からないと言ったように見る。




「は…?え、何って、決まってるじゃない。
 私の颯太さんを取ろうとしたから…。」




自覚がないなんて、本当に最低な女ね。

どうせ、ストーカーか何かなんだわ。




「颯太…!?
 まさか、あんたなの!?」



私の言葉に女は形相を変える。



「あんたが、最近颯太の周りをうろついてるストーカーね!?
 いい加減にしなさいよ!!」





………は。




私が、ストーカー?




何を言っているのこの女は。





「颯太はね、私の彼氏よ!
 迷惑してるの!これ以上酷くなるなら、通報したっていいんだから!!」




嗚呼、どうかしてる。




「…誰が、ストーカー、ですって?」




ゴソリと持っていた鞄の中を探り、あるものを取りだす。




「ひッ…!!」




それを見て、目を開く女。




「ストーカーは、貴女でしょう?
 私と颯太さんは運命共同体なの。絶対的に一緒になる関係なの。
 それを、ストーカー?笑わせないでよ。」




私はにこりと笑って手に持った包丁を見つめた。




「颯太さんが、変な人に捕まると困るから持ち歩いてて正解だったわ!
 先週もうろついてた子が居て…同じ会社の社員でよく飲みに行くなんて言うから殺しちゃった。」




私が一歩近づくと、女は一歩退いていく。




「颯太さんに話していいのも、触れていいのも、一緒に居ていいのも、私だけなの。
 私以外の人が颯太さんに触れたなんて考えるだけでおぞましい。」




恐怖に煽られてその場に座り込む女を見て、私は再び笑った。




「颯太さんは、私だけのもの…!!」




ふと緩んだ口角。



なんとも言えない表情で、私は包丁を振りかざした…






時だった。











「やめろっ!!」




聞き覚えのある声に、私は思わず手を止める。




「颯太、さん…?」




ゆっくりと振り向くと、そこには颯太さんが立っていた。



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