BOOK

□rainy
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長い…いや、長く感じた廊下の隅に
やっと下駄箱が見えた。



昇降口の扉は開いたままで
雨の音はさらに増してざーざー聞こえた。



「…、ああッ、もう!!」



自分の下駄箱から靴を取りだして思いっきり床に投げつけた。


だしっ…


雨の音で消されて微かに聞こえる音。


…ッ、もう!




「樹の…樹のばかあああああっ!!」



「…おい、佳奈、お前何言ってんだ」



…え?



辺りを見渡す。

誰も…居ない、よね?



「こっちだよ」



若干怒ってるような声を頼りに
私は自分のクラスの下駄箱の裏に回った。



「…いつ、き?」


「ほかに誰が居るんだよ」



そこにはずっと逢いたくて仕方がなかった相手が居て。


胡座をかいて座り、仏頂面でこちらを見ている。


不機嫌な理由は…勿論、私…のはず。



「だって…か、帰ったんじゃ…」



へなへなと樹の前に座り込んでしまう。

急に力が抜けてしまった。



「はぁ?誰も帰るなんて言ってねぇだろ?」



―『…なんでお前待ってなきゃならねぇんだよ。』


確かに…言ってませんけども。

曖昧すぎやしませんか…?



「それに…今日は、その…記念日、ってやつ…だろ?」


「覚えて…ッ!?」


「な、なんだよ…。お前、俺が忘れてたとでも思ってたのか?」



頭を掻きながら少し顔を赤らめて言う樹。

その仕草にきゅん、と胸が締め付けられる。



「忘れるわけねぇだろ…。
 俺だって…お、お前の事…好きなんだからよ…」



そう最後まで言い終えた樹の顔はきっと真っ赤だろう。

はっきりとは分からなかった。




鼓動がいつもより激しくて
顔だって自分自身で分かってしまうくらいに熱く感じて、私は私で手一杯だったのだ。




「…ッ、私も、す…好きだよ」




小さく呟く。

雨の音で掻き消されたと思ったのに
樹の顔を見たらさらに真っ赤になっていた。


そして急に顔を上げて、


「お前…その顔、俺の前以外でするなよ。」


なんて言うから少し笑ってしまった。



- - - - - - - - - - - - - - - - - -



空は相変わらず暗かった。

雲もどんよりしていた。



でも、雨の具合はしとしとになっていた。




しとしと雨の中、
水たまりばかりの道で



私は狭い傘の中で
ただ、片手にぬくもりを感じていた。




END.


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