ショート・ショート

□lasting
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「彼」は、死んだ。
私は、一番かけがえなくて、大事な存在を失った




死因は、ガンだった。
発見したときには、もう何の処置も講じられなかったらしい。にも関わらず、ヤツは彼のすべてを奪ってしまった。
そんな彼を、私は指をくわえて見ていることしか出来なかった。


「たとえ手足が動かなくても、言葉が話せなくても、脳味噌さえあれば数学が出来るんだ。それだけで、俺は幸せだよ。」
とは、数学者だった彼が、生前よく言った言葉である。私は根っからの数学嫌いだったから、その言葉の意味を全て理解するのは不可能だった。

だが、1つだけ分かることがある。やっぱり彼は幸せだったのだ。ガンと闘っていようが、意識が朦朧としようが、やっぱり----。
ガンですら、頭の中の楽園は侵せなかったのだから。
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