Web Clap
□デキゴコロ
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それはほんの出来心やった。
いつもみたいに終演後の仕事で遅くなったら、部屋はもう真っ暗。
淋しいなぁと思って寝室に行くと、相変わらずお姫ちゃまは『すぅすぅ』眠っとった。
新公も終わりホッとしたんか、いつも以上に熟睡してたお姫ちゃま。
口元でむにゃむにゃ言いながら、あんまり可愛い寝顔と、細い首筋をむき出しで私に見せてくれてたからつい…
つい『誓い?!』を破ってその首筋に近づいてもうて…
お姫ちゃまの首筋に『チエマーキング』を残してもうた。
「あー…やってしもた。明日の朝、パニック起こすんちゃうやろか…」
そう思いながら眠りについて次の日の朝…
いつもは可愛らしい声で「チエたん起きてぇ朝ですよぉー」と声をかけてくれるお姫ちゃまやのに…
「…っく…ひッ…く」
「………えっ?!」
何故かすすり泣く声が耳に届いた。
「どないしたん!」
飛び起きてお姫ちゃまを見ると、私の枕元に座り込んで号泣してる。
「何?どっか痛いんか?何かあったん?言わんと判らんで?」
抱き締めて顔を覗き込んで話しかけると、お姫ちゃまは私の首筋にしがみ付いて泣き叫ぶように言った。
「…チエたんを裏切ってしまったぁー!!」
「はぁ?!」
「浮気したかもしれんねん」
「えっ?!」
「チエたんの知らん間に、浮気したかもしれん。ほんで、大人の時間を他の人と…」
「何て?!」
あんな穏やかな顔で眠っといてからに浮気って何やねんな。
予想外の展開に苛立ちながらお姫ちゃまの身体を離すと、お姫ちゃまはわんわん泣きながら私の前に首筋を見せてきた。
「覚えてない…けど、これ…キスマークやんねぇ?さゆみたんが…付けるの好きって言うとった……
覚えてへん…けどついてるやん?やっぱり浮気してもうたー!チエたんゴメン!ごめんなさい…うわぁぁん!!」
そっち方向へ行きますか…。
もうぐぅの音も出ぇへん感じやった。
でも、浮気とか言われるんは嫌やった。
だから心の中で溜息ついて言った。
「………………それ、付けたんチエやで」
「………………なんて?」
「いや、だからチエやって」
「…………なんで?」
「何でって…可愛かったからつい…」
「…そんなん何で起こしてくれへんのぉ!」
「起こしても起きへんやんか」
「そらそうやけど…」
お姫ちゃまは鼻を啜りながらそう言うと、さっきまで恨めしそうに隠していたキスマークを鏡に映してニヤッっと笑った。
「大人やね、コレ…」
「とりあえず隠して行ってや?」
「嫌や」
「えっ?!」
「リカしゃんに見せるねん」
「アカン!それだけは止めて!チエしばかれるやん!」
「…そうなん?」
「そうやで!泣かされるやろ!」
「…そっか」
「そうやで。だから隠してや?」
「うん…」
一応舞台に支障ないとこに付けたけど…
心の中で呟きながら、私は昨日の出来心を後悔していた。
「まだ早かったな…」
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