▼LD1 短編

□偽りの貴方と B
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辺りは大惨事だった。
爆撃で負傷死した身体がそこらにゴロゴロ転がっている。
バクシーはジャンを小脇に歩を進めた。
物を焼く臭いが酷い。俺の育ったところもこんな感じだったなと呑気に考え事をしていたところに、CR:5の構成員であろうお綺麗なスーツを着た男どもがバクシーが小脇に抱えたジャンを見るや否や「カポ!」と口々に言う。
そして構成員共はバクシーに向かって「カポを離せ」だの「卑怯なキチガイめ」だの「今日が命日だ」だの言っている。
バクシーはそれらを無視して、ショットガンを構えた。
それらが蜂の巣に化するのは早い話だった。脇に抱えたジャンの顔色が蒼くなっていく。
「次はテメェの番だぜ、ブッシーちゃァん…」
バクシーのショットガンの音を聞き駆け付けたのか、ジュリオとルキーノとイヴァンが砂埃を割って出て来る。
「お前…クレイジー・バクシー…!?」
「ググググッッッッッ…」
バクシーはショットガンをジュリオ達に向け、
「…ッッッモォオオオオオオオオオオオオオオオオニィイイイン!!!」
ショットガンが撃ち撒き散らした。
耳を劈くような轟音が響く。ショットガンの流れ弾が建物に当たろうが、通りすがりの奴に当たろうがバクシーはかまい無しだった。
弾をかいくぐって来たジュリオの鋭利なナイフをショットガンの首で受け止める。ガァンッ!と火花が散った。
「ジャンさんを、離せ…!」
「ヒャハハハハァッ!!」
バクシーはマッチの先端とやすりを細工した歯を噛み鳴らし、意図的に導線を短くした爆弾に火を付け、そのままジュリオに放つ。
爆撃音が耳を劈く中、バクシーは構わず飛躍しルキーノに向かってショットガンを放った。
予想外の動きだったのか、ルキーノは弾を避けきれずこめかみに喰らう。ルキーノは勢いで床に倒れ伏した。
倒れ伏したルキーノに気を取られたイヴァンの背後に素早く回ったバクシーはショットガンの柄の尻でイヴァンの後頭部を強く殴る。イヴァンは酷い眩暈を感じ、膝から崩れ折れた。
「ヒャハハハハァッハァアアア!!ザマァねェなァ!!!俺一人でこのザマかよ!オイ!!どこまでテメェらァフニャマカロニ野郎なんだァアアアッハハハハハハァ!!」
悔しそうに睨み上げてくるジュリオ達に侮蔑の目で見下すバクシー。
「オメェら主力部位なンだろ?ロ?ンだこのザマァ、ここらのギャングよかファッキンだぜ」
「…ッ」
バクシーは脇に抱えたジャンを地面に押さえつけ、ジャンの首元にナイフを宛がう。
「…ッ、な…!?」
「大体テメェらァ…アマすぎンだよ。あ?こんな重役、フツー一人で外に立たせるか?か?ヴァージンラヴシット、テメェらギャングオママゴトでもしてンのかァ?あ?ヒャハハハハァッ!!」
「…ファンクーロ…ッ!身体が、動かねェ…!」
「ンまー…テメェらはヨ、ココでShow Timeでも観てろや」
バクシーはナイフを、長い舌で舐めあげ、躊躇いなくジャンの首に振り下ろした。
地面に血潮が弧を描いて飛び散る。そしてジャンの首が地面にゴトリと落ちた。
周囲の悲鳴が辺りを包む。バクシーは恍惚とした表情を浮かべた。
「ヒトリでセンズリこくよかキモチイーモンだなァ…ヒャアハハハハハハハッ!!」
バクシーは茫然とするCR:5の主力部位共の一人、イヴァンの頭をグリッと踏んだ。

「オチが早え…三流AVよかつまんねェなテメェら」



酷く頭痛がした。
自室は目の前だっていうのに酷く遠く感じる。
今日は馬鹿みたいに騒いだ。
あの後バクシーは、CR:5の主力部位を全員殺害し、カポであるジャンも殺害したとGDのボスに報告した。
これでよかったのだ。酷く疲れた。早く風呂に入って小うるさい猫共と戯れたい。
自室の部屋を乱暴に開ける。猫は全員それぞれの場所に帰ってバクシーの部屋にはいなかった。
バクシーは血に濡れて崩れ垂れた前髪の隙間から前を見る。誰かが立っていた。

ジャンだった。

「お、おま…その恰好、どうしたんだよ…」
血にまみれたバクシーを見て驚愕するジャン。
そうだ、あれは違う。バクシーが先ほど殺したジャンはジャンではなかった。ジャンの影武者だったのだ。
バクシーはジャンを乱暴に引き寄せて強く抱きしめた。
「んぉわッ!ば、バクシー…!?」
耳元で、
「黙ってろ」
と低く囁けば、ジャンは黙りこくった。
ジャンはバクシーのその声にぞくりとした。身体が熱くなる。
(…マジで俺どうしちゃったのよ…バクシーのことが好き、みてェな反応…)
バクシーがジャンを壁際に座らせた。
「お、おいバクシー、ここ玄関だっつの…着替えろ、手当してやっから…………、ッ!」
ジャンは自分の唇に熱い、バクシーの唇が重なっているのを感じた。
重ねて、バクシーは静止する。一向に動く気配を示さないバクシーから逃げようとジャンが身じろぐと、バクシーに腰を引き寄せられた。
ジャンよりも背が高いバクシーは覆い被さるようにジャンに口づける。今度は角度を変えた。
唇と唇が密着し合って熱い。ジャンは突然の出来事で何が何だかわけが分からなくなっていた。
(バクシーが帰って来て、それから、バクシーが弱っている、みてェな感じ…で、突然キス、されて…)
何度も角度を変えられる。次第に角度を変えるたびにクチュ、クチャ、と水音がした。
辺りは酷く静かで暗い。もう日はとっくの前に沈んだ。だからバクシーがどういった顔をしているのか、分からない。
「…、は…」
熱いバクシーの吐息がジャンの唇を掠める。その瞬間、性的な興奮を覚えて身体がカッとした。
窓から入り込んできた月光がバクシーの顔を照らした。バクシーはそれに構わずに唇を重ね続ける。
「…ッ、はぁ……、んッ…ぅ……、…」
ジャンは息苦しさを感じ、身じろぎをした。しかしその身じろぎもバクシーは逃げたい意志からのものと捕えたため、より深く、ジャンを抱え込む。
意外にも長いバクシーの髪が前に垂れて、ジャンは頬に当たって擽ったかった。
ジャンは薄らと目を開いた。そこには欲を湛えた細く鋭い――しかし優し気のある――バクシーの目があった。
ドキリ、とジャンの胸が弾んだ。そして慌てて目を伏せる。
(…本当に俺ァどうしたんだ…拒めばいいのによ…)
ジャンの頭は気持ちよさでぼうっとしているのは事実であった。
それもあってのことか、ジャンは今であればバクシーに何をされてもいい気分がしていたのも事実であった。
バクシーのキスの雨は止むことなく、何度も熱い感触を残していく。いつしか互いの唇は互いの唾液で濡れ、糸を引いた。水音が心をかき乱していく。
不意にバクシーが唇をゆっくり離した。そしてジャンの耳元に唇を寄せる。
「…ジャン、カルロ……」
荒い息と熱い吐息が混じった熱を帯びた囁き声だった。
バクシーは普段息を荒げることを知らない。それ故にジャンは今の声に酷く欲情した。腰が疼いた。
ゆっくりと視線を絡めて来るバクシーにジャンは視線を絡めてやると、バクシーはこれでもかというほど顔の距離を縮める。
「…テメェは俺のモンになった」
性的な意図だけでなく、愛情の意図も交えた仕草でバクシーはジャンの背中から腰にかけてゆっくり撫でる。面白いほどにジャンの身体はピクリと反応した。
「今日テメェは死んだ。あのマカロニ野郎共の前で、なァ…」
「…は?どういう…」
ぎゅうっとバクシーはジャンの身体を抱きしめた。
ジャンの頬に頬を摺り寄せてくるバクシーの仕草は子供らしくて、ジャンはついバクシーの背中に手を回す。
バクシーの身体はかすかに震えていた。
ジャンはバクシーの背中を撫でてやると、バクシーから再びキスが降ってくる。今度は唇が重なるよりも先に長い舌で唇の割れ目をなぞられた。
ジャンは大人しく口を少し開くと、バクシーの舌が徐々に口内に侵入してきて、唇が重なる。
バクシーの舌がジャンの、歯の裏を、歯列を、口内の上部を、頬の裏側の皮膚を、舌を丹念に確かめる。
時々漏れるバクシーの切羽詰まったような息と、ジャンの苦しそうな息が空気を濡らした。
ジャンもバクシーの口内に恐る恐る舌を差し込んだ。
(…前、だったら…噛み千切られるかも、なんて思うのによ…)
恐怖は全くなかった。
それから長い事舌でお互いを確かめ合って、酸欠になりそうだったジャンはそれを訴えるべくバクシーの背中を軽く叩く。
ゆっくり離れた唇に再び糸が引いて、開けっ放しのカーテンから注ぎ込む月光に照らされて淫靡に艶めいた。
バクシーにこびり付いた血がだいぶ乾いてきて、バクシーの髪を固めていく。
「…怪我、したんかよ」
「するわけねェだろ、このオレサマがよ」
「じゃあこれは…あいつらの血か…」
バクシーは口角を上げて、ジャンを見下ろした。
「俺を殺してェか?」
ジャンは目を見開いた。
今ならバクシーを殺してあいつらの仇を取れる、と思ったところでジャンは自分の胸の中の冷めた何かを感じた。
ジャンはへら、と笑ってバクシーを見る。
「いや、それはいいワ。何ッつーか…」
「俺に怖気付いたんケ?」
「No. イマイチ殺意湧かねェンだよ、お前なのに」
「ホウホウ」
バクシーは不敵な笑みを浮かべた。ジャンは再びドキリと胸が躍るのを感じる。そして、ああと確信した。
「俺、お前のコト好きみてェだワ」
バクシーは笑みを深める。

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