▼LD1 短編

□落とし前
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※注意

某バクジャンのドラマCDを入手出来なかったのでネットで内容を見ていたら「クライアント」という人物が出てきたということで、さらにその人物はあのバクシーを従わせる強力な存在ということを知ってしまったのでうぉおおぉおおッッッとなった故のこのネタでございます。
今後クライアントさんが出てきた時に全然口調とキャラが違うとかなりましても、捏造ネタでございますので予めご了承ください。

それでも全然大丈夫だと言う方は↓↓






ガァンッ!と派手な音が殺風景な部屋をこだまする。
音の原因はというと、クライアントがバクシーの右頭部を銃の柄の尻で殴ったからであった。
バクシーの巨体がぐらりと傾いで床に倒れ伏す。
その様子をただ静かに見下ろしたままのクライアントは、先程の殴打の衝撃で血が流れ落つ顔面を再び銃の首で殴った。
それから幾度か、頭、顔面と銃で殴打した後、クライアントは止めと言わんばかりに力を込めてバクシーの腹部に靴の先端をめり込ませる。
辺りは酷い有様であった。
それを居合わせたジャンは息を飲んで見渡す。
GDのファミリー入りして間もないジャンがクライアントを目にするのはこれが初めてであった。
それゆえにこの状況を上手く飲み込めずに、ただ身体中に嫌な汗を伝わせながら目を見開くことしか出来なかった。
(…何やられっぱなしでいンだよ…!あいつ、何モンだ…!?)
未だに続くバクシーへの殴打を見、ジャンは思わず後ずさりすると、後ろにあった椅子に足が当たりガタリと音がした。
クライアントは首をジャンの方に向ける。
「…テメェか、元CR:5の蛆野郎は」
「ンな…ッ!蛆、だと…!?」
クライアントは見せしめるようにバクシーの腹部を踏み躙る。
バクシーはただ静かに唇を噛んで、声も上げずに耐えていた。
あのバクシーが意味不明な絶叫も上げずにクライアントにやられ続けるーーーその状況に堪え兼ねたジャンは震える手を握りしめてクライアントを睨んだ。
「テメェ何モンだ…バクシーも何してんだよ、あの威勢はどこやったんだクソ…!」
クライアントは首を傾ぐ。
それを見たバクシーは目を見開き、待て、と振り絞った声を上げた。
「…落としめェはテメェでツける。こいつァ関係ねェから手ェ出すな…」
クライアントは再び首を傾いだ。
そしてバクシーの髪を掴んで、そのまま床に叩きつける。
バクシーの顔をじりじりと床に押さえつけながら、クライアントは口を開いた。
「バクシー、あのファッキンマカロニ共は始末したんケ」
ファッキンマカロニ共ーーーつまりCR:5の野郎共のことだろう。
バクシーに課せられた任務はCR:5の組織をほぼ壊滅させることであった。
クライアントはよくバクシーのことを知っているーーーバクシーがこのGDに転がり込んできて、腐っていく姿をずっと見てきた。
否、バクシーが腐るように教育したのは紛れもなくクライアント自身であった。
あの馬鹿でかいショットガンも、意味不明な絶叫も、下品な言葉も全てクライアントが仕込んだものである。
「トロイのは昔ッから変わんねェなァ、あ?役立たずのまんまじゃねェか…汚ねェゴミのテメェを拾ってやったのはァどこのどいつだ、あ?生きてる価値もねェクズを今の今まで生きさせてやってんのはどこのどいつだっつってんだよオラ…あ?テメェがいつどこでのたれ死のうがハラん中ぶち撒けてミンチになろうが俺らァどうだってイイんだ、忠誠心っつーファッキンな動機でトマト野郎共をグチャグチャにかき回せってンじゃねェ…分かってんだろ、そこンとこよォ」
バクシーは、監獄に収容されていた時のようなあの戦意のない、淀んだ目でクライアントを見上げた。
ジャンはそれを見て、バクシーとクライアントの関係を大凡把握することができた。
つまりはこのクライアントという男はバクシーにとって司令塔でブレーキ役というわけだ。
ジャンはこの状況に立ち入ることは不可能だと悟った。
そしてこの状況が早く終われば良いと何度も願う。
「こんなトマト臭え野郎とオママゴトすンのは楽しいケ?テメェのヤり方次第じゃあ、このトマト臭え野郎を始末してやってもイイんだぜ?バクシーちゃんよォ…」
「…落とし前は、俺が…」
「…イイかァバクシー…テメェの弱い煮えた頭で理解すンのは難しいかもしンねェけどよォ、よく聞けや…タイムリミットはあと3ヶ月。そこの間でどうにかやり遂げろ」
クライアントはバクシーから手を離し、バクシーの頬に手を添える。
「カワイイ俺のバクシーなら出来ンだろ、なァ」
そしてそのままクライアントの手は拳を作り、バクシーの頬に叩き付けられた。
クライアントはバクシーをひょいと飛び越えドアノブに手をかけると、ジャンを静かに見た。
「精々下手な真似すンなよ、ジャンカルロ」
ニヤリ、と笑ったクライアントの唇の隙間からバクシーのような鋭い歯と、恐ろしく長い舌が覗く。
ああまるでバクシーの生き写しだ、とジャンはゾクリとした。
クライアントがこの部屋を出て間もなくしてジャンはバクシーを起こしあげる。
「お、おいバクシー、大丈夫かよ」
「触んな。…ッ、あークソ痛え…シット」
「あいつ誰だよ…初めて見たぞ」
バクシーは口元にこびり付いた血を長い舌でベロリと舐める。
「クライアント…俺のオヤジみてェなモンだ」
聞けば、バクシーの首にGDを刻んだのも、身体に気味の悪いタトゥーを施したのも全部クライアントの仕業らしい。
ジャンは、あの自由奔放なバクシーが実はクライアントという型に嵌っていたという事実に驚きを隠せなかった。
そしてバクシーとクライアントの間には暗い、深い何かが広がっているのも予測できた。
「…ンま、とりあえず手当してやっからよ」
ジャンはバクシーの血を指でぬぐってやる。
バクシーの目は、幼い子供が絶望に陥り自分の運命を諦めたような色をしていた。


Fin.

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