▼LD1 短編

□拒絶
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俺はジャン。CR:5のボスになって2年は経つ、と思う。
年月に曖昧なのはこのクソみてぇな忙しさのせいで、正直今日が何月何日何曜日かさえ分かんねえ。分かるのはクソ寒いってことだ。
こんな日は温かいスープとパスタを頂きたいネ…はぁ、作らなきゃなんねぇのはこの俺なんだケド。
面倒だナー、誰かチョー優しい奴が俺の為に料理やら仕事やらやってくれればいいのにナーなんて思ってトボトボ歩いていると…。

「ヒィイッヤァッハァアアアァアッッッ!!」

死刑執行の宣告のようなけたたましい絶叫が頭上からーーー頭上?
俺は慌てて上を見る。するとあのキチガイトラブルメーカー野郎が上から降ってきやがった。
「どわぁあぁああッ!」
「オラオラオラオラどけぇええぇえッ!プレスすんぞぉぉおッ!!」
間一髪。俺は横に転がり込むことであのひょろ長な重りの犠牲にならずに済んだ。アブネー。
バクシーはふらりと立ち上がると、奴の頭から爪先にかけて誰の血かは分かんねえが、シャワー浴びたみてぇに血まみれだった。
ぼたりぼたりと地面に血が落ちる。
「お、おまッ、その血…」
「ンあ?…あー、これケ。さっきヤッたあのカッペ共のかネ…キタネ」
さっきヤッたカッペ…?恐らくこの辺のギャングだろう。あいつの血じゃねえのか…よかった。
…ん?よかった?
バクシーはニタリと笑うと俺に近寄ってきた。
「よォよォブッシーちゃんよォ」
「ぅわッ!ちょ、血が!」
ジリジリと後ずさりしてもバクシーが追い詰めてくる。奇妙な追いかけっこをして、俺の背中に硬い壁の感触がしてからゲームオーバーだと俺はギクリとした。それを見てバクシーが笑みを深くし、クソ長い舌が覗き出る。
「ブッシーちゃァん…?」
「ぃ、いいぃやめろ、取り敢えず落ち着けバクシーちゃん。俺を追い詰めて、攫おうってか?」
「攫、…おー…あー、いいなァそれも…おー…」
やっべぇ余計なこと言っちまった。
「ハッハァン…」
やめろその嫌な笑みやめろ。
「お、お前さァ!ケガしてんじゃねぇの?手当しねぇとヤベェだろ?な?だからよォ、」
バクシーはまるで聞いちゃいない。奴との距離がどんどん近くなる。来んな話聞け馬鹿。
そしてバクシーの手が俺の顔に伸びてきた。
(ーーー…殺、される…!)
「触んじゃねぇ!」
Don't touch meと言って、バクシーの手をパシンと叩いてから、ハッとした。
バクシーの動きが完全に止まる。あの気味悪い笑みもどっか行って今度は違う意味で気味悪い無表情に成り切っていた。
トチッた…ついにやっちまった。今度こそ殺される、確実に。
バクシーは三白眼を細める。と同時に奴の瞳孔が縦に細くなるのも見えた。まるで獣の目のように。
そしてバクシーの馬鹿デカい手が俺の頭上の壁を力一杯殴った。壁がちょっと崩れたのは気のせいかしら?
バクシーが俺を覆いかぶさるように見下ろしてくる。俺は奴から視線が外せなかった。
バクシーの手が俺の肩を掴んできた。優しく、壊れ物に触るように。てっきりガッツリ骨が折れるくらい掴まれるのかと思っていた。
バクシーの表情が少し曇った。気がした。
「…興醒めだナ」
バクシーが俺から離れて背を向ける。
「あーあ、また遊ぼーゼ。ブッシーちゃんよォ」
ひらひらと奴の手が揺れる。
あいつは結局一体何がしたかったんだ?俺をからかいに来たのか?でもあの落ち込んだみてぇな態度からするとからかいに来た感じでもねぇし…。
「お、オイ待てよバクシー!」
いや待ては俺だろ、何あいつ呼び戻してんだよ俺。
バクシーが歩を止めてこちらを振り返る。あーケツがブルッてやがる。
こうなったらどうにでもなれ。どうにかなる。呼び止めて、何もないですごめんねじゃあシーユーなんて巫山戯たギャグ、そこらのクソ神父の説教よりツマンネェ。
俺はバクシーに駆け寄った。そしてなるべく冷静を装う。
「お、お前さ、俺に用があって来たんだろ?何だよ用って。気になって眠れやしねぇ」
バクシーは黙って俺を見つめている。クッソいつもはあんなに五月蝿えのに何黙ってんだ…YEAHの一言でも言えよクソ…!
「さ、さっき叩いたのは悪かった。謝る。この詫びは今度ーー…」
「ハッハァン…?」
バクシーは自分の顎に手を置いて、ニヤリとした。
「ネコはよォ、天邪鬼でナ。触らせやしねェのに後追いかけてくンだよ」
「は、…?…何言って…」
「ンま、そーんなきゃわゆいニャンコにはよ」
バクシーが腹に巻いた謎の布に手を突っ込む。ありゃ、何だ。そして、手出せって言うもんだから俺は素直に手を出した。
俺の手の上に乗っけてきたのは、細長い…ゴムホース…みてぇなの。
「…What?」
「ちくわだ、ちくわ」
ティクワ?…ああ、何か前バクシーが美味いとか言ってたやつだっけか。
「確か、ジャポーネの…」
「今アソコは戦争中でよォ、まーひでェ有様なモンでこっちに移って来るヤツもいンだよ。不法だけどな。GDのお人好しな奴らがそいつらからショバ代としてコレ貰ってンだとヨ」
「へー…ヤーネ、戦争は」
やっぱりバクシーは博識だ。あんな意味わかんねえことばっかり言ってんのによくこんなこと知ってんなァ…そこだけは感心する。
「さッてと、そろそろ俺ァ行くぜ」
バクシーがショットガンをガシャンと揺らした。俺は思わずビクッとする。…カポなのに情けねェ。
「おめェとはもう少し遊びてェからナ…ンま、GDの奴らにもヨロシク言っといてやっからよ!ケケケッ!!」
バクシーは恐るべき飛躍力で屋根に飛び乗った。猫みてぇに軽い奴。
「じゃあな!ジャンカルロォ!また遊びに来るぜェ!!ヒャハハハハッ!!」
奴の背中はもう遠くまで飛んでいった。
また遊びに来る、かぁ…。

「…ま、それも悪くないカモ」


Fin.

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