▼LD1 短編

□Idiot@
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――CR:5本部


キィ、と窓が開く音がした。そんなに今日は風は強くないはずだけどな。俺は窓を閉めようと振り返って窓を見る。すると窓の桟に乗り上げたバクシーがこちらを見ていた。
「ば、バクシー!?お前ッ、何でここに…!」
バクシーは人差し指を自身の唇に当てて唇を少し尖がらせる。くそぅ…かっこいい。しかも今日のバクシーの恰好はいつものど派手なジャケットではなくて、何故かCR:5のメイドマンの服装をしている。俺はそれに見惚れて呆けているとバクシーが得意げにシャツを長い爪で抓んでニヤリとした。カッとした俺はバクシーが他のメイドマンに見つからないようにバクシーを中に入れた。
「ハァ…ビックリさせんなっつの。で?何か用?」
「ンー?つれないわねぇボク。思春期?反抗期ケ?」
「お前が素っ頓狂な侵入してくるからだろ!ったく…見つかったらお前この世にいねぇぞ?」
「俺がココのフニャマカロニ野郎共に殺られるって?あ?」
事実だろう、今日はルキーノが本部に滞在しているし、見つかったら引き摺り回されるに違いない。こいつのCR:5へのサーカズムな発言はどうやったら止まるのか。俺らだって一応マフィアでここら一帯を取り締まる大きなファミリーだ。とはいえGDには敵いっこないが…あんなアウトローファミリーには成れっこない。
「ンま、座れよバクシー。よく来たな、ようこそCR:5のカポ室へ」
「ハッハァ、お言葉に甘えてぇとこだけどよ。それをしちゃあコレをわざわざ取り寄せた意味がねぇっつーもんだ」
そうそう、こいつは何でメイドマンの服装をしているんだ。いや似合ってるけども。かっこいいけども!
「何?コスプレにハマってんのお前」
「お嬢ちゃんがヨゥ、俺がど派手な恰好してきちゃあ目立つしバレるっつーもんで、変装してんだよ」
「…はぁ」
バクシーは丸めた背中をピンと伸ばし、グラサンを掛け表情を引き締めた。
「これでだいぶお前らマカロニ野郎共にゃ、ちったぁ見えるだろ」
「ええかっこいいです」
俺は思わず手を合わせた。こいつはどれだけサプライズプレゼントをぶっこんでくるんだ。俺の心臓が持たん。…俺って結構バクシーに首ったけなんだな。恥ずかしくなってきた。
するとバクシーは俺の頭をわしわしと撫で、誇らしげに笑み、可愛いなと零した。ほらそういうの、心臓が持たないって言ってんのに…言ってないけど。
バクシーはグラサンを少し下にずらして俺の顔を覗き込んでくる。
「顔真っ赤だなぁ?ハッハァッ!」
「ばッ…!見てんじゃねぇ!」
バクシーが俺を抱きしめてくる。バクシーの獣のような匂いが鼻孔を擽った。少しボディーソープの匂いもする。俺は今のうちにと思ってバクシーの首筋に鼻を埋めた。バクシーの体温が鼻先を掠める。
「ンー?今日はえらく甘えたちゃんじゃねぇか」
「そ、そんなわけ…」
そんなわけ、ある。ぶっちゃけ俺とバクシーが再会したのは3か月ぶりくらいだった。さっきは必死に動揺と歓喜を押し殺していたが目の前に来られるとやっぱり止まらない。バクシーの肌に触れたくて、想像して自分を慰めた夜もある。情事のバクシーの熱い声と息を思い出して、バクシーの愛撫を思い出して。それでも襲ってくるのは虚無感で情けなくも枕を濡らしたこともある。早くバクシーに会いたくて仕方なかった。
「…そりゃ、お前と会うの久しぶりで…、…嬉しいに決まってんじゃねぇか」
「ホウホウ」
俺はバクシーの首筋にキスをした。バクシーの少し硬い皮膚に唇が触れた瞬間、これだと身体が震える。長い事望んでいたこの感触、やっぱり俺はバクシーが好きで好きでたまらない。でもバクシーだってGDの構成員をやっていて忙しいわけがない。この前はメキシコに遠征で酒造やらヤクやらの手配で大変だったらしい。その時は確か1年会えなかった気がする。それに比べたら今回なんて比べようがないのだが…寂しいのは寂しいに決まってるし。
拗ねた表情をしてやるとバクシーが優しいキスをしてきた。焦がれたこの感触にも身体が震える。下半身が熱くなってきたのも事実だ。バクシーはそれに気づいているらしく、俺の脚と脚の間に奴の太ももを挟めてぐいぐい刺激してくる。俺は必死にバクシーにすり寄って甘い声を出した。もっと触って欲しい、このままぐちゃぐちゃに溶けるくらい犯して欲しい。
「バク、シー…」
名前を呼べばバクシーは口角を上げ、俺の脇腹を掴んでくる。バクシーがその気になった、と歓喜と快楽で蕩けた頭の端で思った、瞬間、ドアのノック音が部屋を木霊する。
『俺だジャン、入るぞ』
ノックの犯人はルキーノだった。お願い殴らせて!一発でいいから!俺がドアを睨むとバクシーがまた後でと言わんばかりに頬にキスをしてきたので、落ち着いた声で入れと言った。
ルキーノが部屋に入ってくるとバクシーはピシッと背筋を伸ばしてメイドマンらしく佇む。ルキーノの眉根が寄った。
「ジャン、取り込み中だったか」
「いいやノープロブレム。どした?」
「…いや、さっき誰かがこの部屋に侵入したと通報が入ってな」
ルキーノの鋭い視線がバクシーを捉える。どうやらルキーノはほぼ確信に近い推測で侵入者はこいつ(バクシー)だと思っているらしい。俺の嫌な予感は当たってしまったというわけだ。バクシーは身じろぎひとつもせずに黙って立っている。
「なぁお前、この部屋に誰か入ってこなかったか?」
ルキーノがバクシーと距離を詰める。今にも胸倉を掴みかかりそうなルキーノを見てハラハラした。
「いえ、何も。自分がこの部屋を訪ねたのは先ほどですので」
「ほう?…メイドマンがカポ室に入るのは禁じられている筈だよな?カポ・レジームを無視する気か?」
やばい、ルキーノはバクシーの化けの皮を剥がしに掛かっている。ここで抗争沙汰になっては面倒だ。
「ルキーノ、それ俺の幼馴染なんだよ!CR:5にファミリー入りしたっつーからさ、久しぶりに話し込んでたわけ!」
「それはそれで問題があるな、ジャン。お前自分がカポだって自覚あるのか?万が一があればお前も俺らもタダじゃ済まないのはよく知っている筈だが?」
「あ、あー…それはぁ…」
ルキーノはもう少し人の話信じてもいいと思う。職権乱用するわけじゃないけどカポの俺がこう言ってるんだからそれでいいじゃん!ルキーノはバクシーの胸倉を掴んだ。あちゃー、始まっちゃった…!
「…随分ヤクと酒の匂いを振り撒いてんだな」
ルキーノが不敵な笑みでバクシーを睨む。バクシーはというと、びっくりするほどアーティキュレーションなイタリア語で、
「すいません。それらの仕事を片付けたすぐでしたので…気分を悪くされましたか」
と謝罪した。…謝罪した!?あのバクシーが謝罪した。面白いものが見れたな、と必死に笑いを堪えていると、ルキーノが俺を見る。まさかバレたかとぎくっとすると、ルキーノはバクシーの退室許可を申し出た。つまりあの甘い時間の続きはおあずけというわけだ。…Fanculo!
バクシーは部屋を出る寸前に俺の顔を見てグラサン越しにウィンクをした。俺は茫然とバクシーに手を振る。今日はらしくないバクシーをよく見る。もしかしてあいつも俺と会えて嬉しかったのかなー…なんて。
バクシーが去った後にルキーノが物凄い形相でこっちに向かってきた。そして俺の目を真っ直ぐに見て、酷く苛立った口調で吐き捨てた。
「随分とイヤな野郎を招いたモンだなジャン」
「いやぁ…ああしてるけど根は良い子なのよ?」
「そういう問題じゃない!いいかジャン、あいつにあまり関わるな。何か合ってからじゃ遅い」
ルキーノはデカい葉巻を取り出して火を付け、一気に吸い込み肺でだいぶ燻らせた後に吐き出した。
「殺してきた人間の血と脂の臭いは中々消せねぇもんだ」





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