妄想列車3号
□ヒロさんの大いなる災難
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「嬉しいです。ヒロさんが俺にやきもち焼いてくれたんですね」
「はぁ!?」
「俺は包帯巻いたヒロさんが心配で心配で、ちょっとでも時間が出来たらヒロさんを見に来ようって思ってて」
「俺はお前に心配される程頼りないってーのか!一人で仕事も出来ないって言うのかよ!」
野分の腕の中からスルリと抜け出て距離をとる。
「違います!ヒロさんは立派な人です。仕事の事とかで心配はしてません!」
「じゃあ、なんなんだよ」
「わかってないからです」
「何を!!」
「怪我をした事で、弱っているヒロさんがいつも以上に可愛くなっている事がです」
「訳がわからん。可愛いなんて言うのはお前だけだろうが」
「ほら、気付いてないですよね。だから心配なんです」
「俺に分かるように説明しろ」
「ああ、だけど、ヒロさんがやきもち焼いてくれたなんて。俺嬉しくて嬉しくて」
俺の質問に答えないまま、野分の野郎が再び俺に抱きつき、キスをしようとして来た。
俺の職場で、んな事したくねぇーんだよと、近づいて来る野分の顔を思いっきり手で突っ張って「やめろ」と言ったが、野分の馬鹿力にかなうはずもなく・・・。
「ん・・・んん」
キスをされて多少の抵抗をしてみるも、野分とのキスの気持ち良さには勝てなくて・・・。
「ヒロさん」
「なげーよ」
「すみません。包帯緩んじゃいました」
「仕事、いいのか?」
「そろそろ戻ります。その前に傷見せてください」
「ん」
「はい。大丈夫ですね。痛くなったらすぐ連絡してくださいね」
「あぁ」
「病院に戻ります。今夜遅くか、明日の午前中には帰れると思います」
「ん」
「ヒロさん、最後までしてあげられなくてごめんなさい。帰ったら存分にイチャイチャしましょうね」
「///るせーっっ!!さっさと行けー!」
ここ数日は傷の痛みもなく過ごす事が出来た。
野分が帰宅する度、傷の様子を見る為に包帯を外すのだが、傷を覆うパッドの上から手を当てて「早く良くな〜れ」と呟く。
俺はガキか!と言いたいが、この傷の事では世話を掛けっぱなしなので、照れくさいのをグッと我慢して野分にされるがままだ。
「なぁ、もう包帯取ってもいいんじゃねぇーのか?」
「そうですね・・・・・あっ、いえっ、まだもう少し・・・ダメ・・・です」
「そうか」
「はい」
「だけど痛みも痒みもないぞ」
「もう少しです。完璧なヒロさんに戻るまでこのままで」
「完璧な俺って・・・んじゃ、パッドは外して・・とか」
「あ・・・・・いえダメです。あと少し我慢してください」
「はぁ・・・そうか」
そしてまた数日が経ち、大学の中では宮城教授が
「上條、まだその包帯取れないのか?」
「傷は良くなってるはずなんですが、野分がまだダメだと言うんです」
「ふ〜ん・・・・・まぁ、わからんではないが・・・」
教授がいつもに増してニヤつきながら俺を見ている。
『キモイ』とはこういうことなんだろうかと思う。
「教授?何ですか」
「あ〜・・・いやぁ〜彼の気持ちがよ〜くわかるなぁっと思ってねぇ」
「???」
「まあ兎に角上條は、主治医の言う事をしっかり聞いて、完治を目指してくれ」
「・・・はい」
野分と宮城教授が『出来るならずっとヒロさん(上條)の包帯姿を見ていたい』などと思っていたなんて俺はこれっぽっちも考えてはいなかった。
そしてまた数日後のある日。
帰宅すると野分が居た。
「ヒロさん、お帰りなさい。明日俺と一緒に病院に行ってください」
「え?明日? ただいま」
「はい。仕事休みですよね」
「ああ・・・」
スーツを脱いでラフな格好に着替えて、野分が作ってくれた夕飯を食べる。
「もしかして、この包帯取るのか?」
「はい」
「そっか〜。やっとか」
この時野分が何故か暗い顔をしていた事を包帯が取れる嬉しさで全く気付かないでいた。
そして、わが身に起こる最後の不運が明日待ち構えていたとは。
翌朝
「ヒロさん行きましょうか」
「おお」
エレベーターを降り、マンションを出たところで
「あ!野分悪い。診察カード忘れた。先に行っててくれすぐ追いつくから」
「ヒロさん、無くても大丈夫ですよ」
「いや、取ってくる」
これが間違いだった・・・・・。
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