リクエスト

□正夢
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佐久間が珍しく早退した。
今日は朝から風邪気味だったらしい。
恐らくそれが悪化したのだろう。
佐久間は季節に1度は風邪を引くくらい風邪を引きやすい。
帰りにプリントを渡すついでに見舞いに行くか、と思いながら今日の練習メニューを熟す。
終わる頃には真っ暗になってしまった。

「じゃあな、鬼道」
「あぁ、またな」

部室から出て、佐久間の家の方を歩く。
道は暗いが、佐久間に会えると思うと自然に心が弾んだ。
もし体調がよければ、またあの笑顔を見せてくれるかもしれない。
佐久間の家に着き、インターホンを鳴らす。
…返事は、無い。

「佐久間?」

寝てるのかと思い、以前教えてもらった合鍵の場所を探し、鍵を開ける。
家の中は真っ暗だ。

「…お邪魔します」

熱が高くなっていたらいけないと思い、とりあえず勝手に上がらせてもらう。
今日はこの後何も無いから、少しの間だけでも看病してやろう。
そう思い、佐久間の部屋のドアを一応ノックし、ドアを開ける。

「ひゃ…あ、あぁ、いやああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

突然聞こえてきた悲鳴。
それに驚いて一瞬動けなくなるが、すぐに佐久間の元に行く。

「佐久間オレだ、鬼道だ!
 落ち着け、落ち着くんだ!」
「やだ、やだやだやだやだやだ!!
 あっち行け!
 来るな、来るな!」
「佐久間!」

腕を掴めば思い切り振り払われ、それでも佐久間の身体に手を伸ばせば容赦無く引っ掻いてきた。
傷口から血が滲み出る。
それでも構わずに佐久間の身体を抱き寄せる。
暴れ続ける佐久間は、まるで何かに怯えているかのようだった。

「佐久間、落ち着け。
 ここにはオレとお前以外いない。
 オレの事は怖がらなくていい。
 オレはお前を傷つけない」

徐々に落ち着いてきた佐久間の身体は小刻みに震え、オレの想像以上に細く、弱々しかった。
とりあえず暴れる事を止めた佐久間をしっかり抱きしめてやる。

「もう大丈夫だ、佐久間」
「…うそつき」

突然佐久間が声を発した。
とても重く冷たい声だ。
普段オレ達に向けるものからは想像もつかないほど、鋭く痛い。

「佐久間…?」
「そんな事、思ってもないくせに」

佐久間は、何を言っているんだ?
どういう事だと問えば、佐久間はクスクスと笑った。
その笑い方は「きどーさん」とオレを呼ぶ時の声と似ていた。

「お前はオレ達の事、何とも思ってないくせに、まるで仲間を大切にしてるみたいに振る舞ってさ。
 本当は邪魔だと思ってんだろ?
 役立たずなオレの事。
 そうだよなぁ、天才ゲームメーカー鬼道有人の参謀なのに何も出来ないもんなぁ。
 こんな役立たずな参謀なんかいらないよな?
 でも仕方なくつき合ってやってる。
 無能なくせに意気がってる滑稽な愚か者と心で嘲笑いながらな!
 そうなんだろ!!?」

叫びながら佐久間は自分の腕にカッターの刃を突き刺す。
さっきまで錯乱する佐久間に気を取られ気づかなかったが、佐久間の腕は血塗れだ。
毛布もシーツも服も、幾つもある傷口から溢れ出る赤い血に染まっていた。

「止めろ佐久間!
 オレはお前達の事を仲間だと思ってる!
 オレはお前達を裏切らない!
 お前を役立たず等と思った事は無い!」
「嘘だ!!」
「嘘じゃない!」

佐久間は口元を歪め笑ったが、その目は何も映してなかった。
そして佐久間は、オレに向かってこう言った。

「じゃあさ、オレが死ぬ事を望めば、お前はオレを殺してくれるのか?」
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