F×S

□甘えと幸せ
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「よ、久しぶり」

頭の中が真っ白になるとはこういう事を言うのか。
全く動けなくなった。
目の前にいるコイツを知り合いと認識するのに一体何分費やしたか。

「さ、くま…?」
「んだよその顔。
 約8年間もお前を居候させてやった友人を忘れたか」

いや覚えてる、覚えてるけど…。

「お前…性転換でもした?」

鳩尾にハイキックを食らい、悶絶する事約5分。
まだ何も食ってなくてよかった。

「久々に会って言う事か!
 つか失礼にもほどがあるだろ!」

いや、お前が悪い。
年々綺麗になっている事には気づいてたが、たった2年会わなかっただけでこんなにも見違えるものなのか。

「ぅえ、痛ぇ…。
 つか朝っぱらから何の用だよ?」
「馬鹿か、もう昼だ」

とりあえず上がらせろと要求する佐久間を部屋に入れる。
散らばった書類や溜まった洗濯物を見て溜息を吐かれた。

「お前さ、もうちょっと生活力ある奴じゃなかったか?」
「徹夜明けの奴にそれ言うか?」
「確かに酷い顔だな」

佐久間は持っていた荷物を置くと、突然オレを部屋から追い出す。

「ちょ、佐久間ぁ!?」
「お前ちょっと寝ろ。
 ヤバいとかそういうレベルじゃないぞ」

寝室に行けと言われ、反論する気も起きず、大人しく寝室に向かう。
ベッドにダイブすれば、目の上には濡れタオルが乗せられ、足元で団子になっていた毛布を被せられた。
何のつもりだ、そう問おうとしたが、その前にオレは眠りについてしまった。


――――――――――――――
――――――


目が覚めたらもう夕方で、何か飲もうと寝室から出れば、他の部屋が見違えるほど綺麗になっていた。
書類もキチンと整理され、洗濯物も食器も綺麗に片付けられ、床も隅々まで掃除されていた。
居間の布団を外した小さいコタツテーブルに伏せて眠っている佐久間にそっと上着を掛けてやれば、うっすらと目を開け、小さく微笑む。

「悪ぃ、起こした?」
「ううん、大丈夫」
「悪ぃな、何か色々してくれたみたいで」
「オレが勝手にやっただけだ。
 気にするな」

コーヒー淹れるな、と立ち上がった佐久間を後ろから抱きしめる。
何でコイツはオレの所に来たのか、何でこんなに色々してくれたのか、オレにはわからない。
でも…

「不動…?
 どしたの?」
「なぁ佐久間…。
 鬼道はどうしたんだよ?」
「鬼道?
 鬼道は雷門サッカー部のコーチしてるよ」
「そうじゃなくて…」

鬼道と佐久間はつき合ってたはずだ。
じゃなきゃ中学・高校と、わざわざ部活帰りに雷門に行ったり、大学を卒業したのに、頼まれたくらいで帝国サッカー部のコーチになったりしないはずだ。

「なぁ佐久間…お前、鬼道とつき合ってんだろ?」
「はぁ?
 何寝ぼけた事言ってんの?」

…はい?

「鬼道とつき合ってるって、そんな事あるわけ無いだろ?
 アイツはただの友人だ」
「で、でもお前…」

混乱してるオレにクスリと笑った佐久間は、人差し指をオレの唇にそっと当てる。
綺麗に微笑み、小さく小首を傾げる。
そして―
 
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