イナズマジャパン

□悪ノ帝国 〜第3章〜
4ページ/4ページ


「なぁガゼット、この鏡は?」
「ん?
 あぁ、綺麗だろ」

シルベスト王国に戻る途中に立ち寄ったスティールの武器屋に、なぜか置いてあった2枚の手鏡。
細かい装飾がされており、少し古いが綺麗な手鏡だ。

「あげよっか?」
「はぁ?」
「手鏡、あげよっか?
 大した物じゃないし、お前はウチのお得意様だし」

棚から手鏡を取り出すと、片方を可愛らしい包みでラッピングしてくれた。
何のつもりだ、と尋ねると、ガゼットはニヤニヤ笑いながら答えた。

「サクラ王女様へのプレゼント。
 2枚も鏡いらないだろ。
 てかお前、鏡見たりするの?」
「そういうの失礼って言うんじゃねぇの?」

ケラケラと笑うガゼットに、溜め息を吐くアキラ。
手鏡は有り難く貰ったが、サクラへのプレゼントにお古の鏡か…、と再び溜め息を漏らした。


――――――――――――――
――――――


シルベスト国の王宮へ戻ったアキラは、サクラの部屋の前で右往左往していた。
手鏡を渡していいのか悩んでいたのだ。

(サクラへのプレゼント…。
 ガゼットは知らなかったんだろうけど、サクラは鏡が好きじゃないからな…。
 まぁ、目の傷が消えてないんだ。
 鏡、見たくないよな…)

2年前の事を思い出し、気分が底辺まで沈んだ。
可愛らしく包まれた手鏡を見て、諦めて戻ろうとした瞬間、サクラの部屋の扉が開いた。
変な声を上げたアキラに驚いたサクラは短い悲鳴を上げた。

「わっ、サクラ様!
 す、すいません!」
「大丈夫、どうしたの?」
「あ、いや…」
「何それ?」
「これは…その…。
 そんな高価な品ではありませんが…」

アキラは包みをサクラの前に差し出した。
それを受け取ったサクラは、開けていい?、と聞いてきたので、アキラは小さく頷いた。
丁寧に包みを開け、中にあった手鏡を取り出した。

「鏡…?」
「や、やっぱり鏡は駄目ですよね!
 すいませんサクラ様」

手鏡を取り返そうとした時、サクラはアキラの手を握った。
その表情は心から嬉しそうだった。

「ありがとうアキラ!
 鏡、大切にするね!」

嬉しそうに鏡を見るサクラの笑顔に、アキラの表情も綻んだ。
大臣達が買ってくるドレスみたいな美しさは無いし、テルルドから贈られる装飾品のような輝きは無い。
でもサクラは、どの贈り物よりも喜んでくれた。

(サクラ…。
 お前の周りに味方は少ない。
 だがオレは、何があろうとお前の味方だ。
 オレがお前を守るから、お前はそうやって、笑っていてくれ)

この幼い祈りを、果たして神は聞き届けたのか。
この世界の残酷な神は…。


――――――――――――――
――――――


サクラと別れた直後、アキラは見慣れない2人組に遭遇した。
服装と持っている道具から、掃除役だとわかった。

「新人か」
「ま、そんなトコ」
「口を慎め。
 お前らみたいな地位の人間がそんな喋り方してると、即行首が無くなるぞ」
「余計なお世話だ」

生意気な掃除役に苛立ちを覚えながらも、王女直属召使という名誉ある地位の人間として、何とか冷静さを保つ。
しかしなぜ立入禁止の新人掃除役がここに入れたのか。

「名前、聞いといてやるよ」
「オレはバーン」
「ガゼルだ」
「バーン、ガゼル、配属は掃除役だろ?
 新人はこのフロアは担当出来ないはずだぜ?」
「あぁ、オレらの担当は厨房と馬小屋だ」
「ならさっさと持ち場に戻るんだな。
 サボってると身の安全は保障出来ねぇよ」
「王女に鏡なんか渡した奴がよく言う」
「…今すぐこの場から消え失せろ」
「へいへい」

蔑んだように嗤い、持ち場へ戻る2人。
苛立ちを抑えられなかったアキラは、この後コウガに八つ当たりしまくった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ