イナズマジャパン

□悪ノ帝国 〜第4章〜
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アキラは宰相から使いを頼まれた。
しかしアキラは王女直属の召使であって、宰相の用は他を当たれ、と言うと、サクラからの命だと言うのだ。
嘘だとアキラは直感で感じた。
本当にサクラからの命なら、サクラが直接アキラに「頼む」はずだ。
間に人を、しかも宰相を入れるとは考えられない。
しかしアキラは「王女直属の召使」、命を無視するわけにはいかない。

「…用件、は?」
「お前はスティールという武器屋を知っているな?
 そして、そこの1人"娘"と仲がいい」

宰相はニヤリと嗤うと、アキラにナイフを手渡した。
訝しげな目でナイフを見ていたアキラだが、その使い道を察した途端、冷や汗が背筋を伝う。

「噂によると、"娘"の髪色は綺麗な青…。
 ここまで言えばわかるな?」
「待て、アイツは男だ!
 名前はガゼット=スティール、歴とした男だ!」
「信用出来んな。
 お前らの仲は聞いている。
 わざわざお忍びで訪問するほどなんだろう?
 下手な嘘を吐くな」

アキラに選択肢など無い事は、最初からわかっていた。
だが、ガゼットを手にかけるなんて出来るはずが無い。
絶望感がアキラを包み、その場に立ち尽くしていると、優しい声に名前を呼ばれた。

「サクラ…様…」
「アキラ、どうしたの?
 顔色悪いよ、大丈夫?」

心配そうにアキラの顔を覗き込むサクラ。
その瞳は1つだけ。
もう片方には痛々しいほど白い包帯が巻かれている。

(サクラは…オレのせいで片目を失った。
 なのにオレを恨む事も責める事もしない。
 もし、オレが罪を犯して、それでサクラが笑っていられるなら…)

答えなんか、最初から決まっていた。
サクラのためなら、宰相達に利用されているだけだとわかっていても、それを実行する。
サクラを守ると誓ったから。

「アキラ?」
「何でも無い、大丈夫」
「本当?」
「あぁ、本当」

よかった、と微笑むこの娘を、アキラは守りたいと願う。
例えその結果、大きな十字架を背負う事になったとしても。


――――――――――――――
――――――


深夜、こっそり王宮を抜け出したアキラは、ナイフを持ってスティールの武器屋に向かった。
今から自分がする行為を思うと、足を止めそうになる。
歩きながらずっと、ごめん、と言い続ける様は異常だった。
だがアキラは足を止めない、ナイフを手放さない。
答えはもう、決まっているから。
明かりの消えた武器屋の2階、左側の窓に小石をぶつける。
怠そうに窓から顔を出したガゼットは、アキラの姿を確認すると外に出てきた。

「何だよこんな夜中に…。
 もう閉店してるぞ?」
「悪ぃ、ちょっとな…」

何かあると感じたのか、ガゼットは上着を羽織ると散歩に誘ってきた。
しばらく歩き、アキラは名前を伏せて事の成り行きをガゼットに話した。

「暗殺依頼か…。
 お前を使うってトコが読めねぇな」

親身にアキラの相談にのるガゼット。
アキラのその背後に静かに回る。
月明かりに照らされ、白く輝くナイフを勢いよく振り上げ――

響く絶叫、静まる空。
 
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