リクエスト

□正夢
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「きどーさん」

最近佐久間はよくオレに話し掛けてくる。
登校中、休み時間、部活、下校中、とにかく事あるごとにだ。
ケタケタと笑いながら「きどーさん」とオレの名を呼ぶ。

「どうした?」
「へへっ、今度の試合、楽しみですね」
「あぁ、そうだな」
「オレ達、絶対勝てますよね?」
「当たり前だろう?
 どうしたんだ?」

そう問えば、佐久間は「何でもありません」と、楽しそうに笑う。
「それでは、また明日」
「あぁ、また明日」

トテトテと駆けていく佐久間の後ろ姿を見送り、オレも再び歩き出す。
オレの参謀の佐久間は、その能力には申し分無いが、時折意味も無く楽しそうな顔をする。
最初は試合前で浮かれているのかと思ったが、試合とは全く関係無い時にも同じような仕種を見せる事があった。
何がそんなに楽しみなのか、何度聞いても「ないしょ」としか答えない。
普段が従順な佐久間の「ないしょ」はかなり辛い。
教えてくれると思っていた事をはぐらかされるのだから。


――――――――――――
――――


「佐久間、源田」
「鬼道さん」
「どうした?」
「何だ、オレは何か用が無いと話し掛けてはいけないのか?」
「ははっ、そうじゃないよ」

昼休みに源田と佐久間が話しているのを偶然見つけたオレは、2人に歩み寄った。
源田がオレを見て一瞬顔をしかめたのは、恐らく何かよくない連絡をされると思ったからだろう。
オレが昼休みにこの2人の元に来るのは大抵そういう連絡をする時だから。
2人のたわいない話しに混ぜてもらい、珍しく平和な時間を過ごす。

「でさ、そこで辺見が…」
「あはは、何それ!」
「な、変だろ」

平和だな。
源田と佐久間の会話は時間の流れも、自分が今帝国学園にいる事すら忘れさせる。
意味も無い、ただお互いに笑い合うための会話なんて、この学園ではほとんど聞かない。

「そうそう!
 この前成神がさー…」

楽しそうに笑う佐久間が、とてもとても輝いて見えた。
キラキラと、昼下がりの木漏れ日のように。
この時間が、ずっと続けばいいのに…。
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