リクエスト

□奪還
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いつからだったか、オレはアイツを"サク"と呼び、アイツはオレを"咲ちゃん"と呼んだ。
幼い頃からのつき合いだからか、アイツは無条件にオレに甘えてくる。
ちょっと幸せ。
どんなに源田が甘やかしても、どんなに鬼道が可愛がっても、アイツはオレの元に帰って来る。

「咲ちゃん」
「サクか、どうした?」
「あのさ、この前の試合―」

同じクラスの鬼道や源田ではなく、わざわざ隣のクラスのオレを頼ってくる。
それはサクのオレに対する信頼の表れだ。

「佐久間」
「鬼道?」
「話している所すまないが、次の対戦相手の視察に一緒に来てくれないか?」
「いいけど…時間は?」
「今日の放課後、HRが終わり次第すぐに」

サクとの会話を鬼道に邪魔されたからって、ふて腐れるわけにはいかない。
オレ達が試合に勝てているのは2人が敵のデータをちゃんととってきてくれているから。
なのにそれを"邪魔"として扱ってはいけない。
サクは鬼道の参謀なんだから。

「咲ちゃん?」
「お?」
「どうした?」
「何でもない」

オレが笑って見せれば、サクも笑い返してくれた。
サクの心に、しっかりと"オレ"という存在がある証。
今はそれだけで十分。

「咲ちゃん、さっきの話の続きだけど―」

楽しそうに無邪気に話すサク。
コイツから笑顔を奪う奴がいるならば、例えそれが誰であろうと、このオレが絶対許さない。


―――――――――――――
――――――


サクが、笑ってくれなくなった。
オレがどんなに優しく呼んでも、笑って「あぁ、咲ちゃん」って返事してくれない。
誰だ?
サクから笑顔を奪った奴は。
どうしてサクは笑わなくなった?
どうして?
謎、謎、謎…。
…あぁ、アイツだ。
鬼道のせいだ。
鬼道がサクを裏切ったから。
鬼道がサクを置いて行ったから。
鬼道がサクを見捨てたから。
鬼道が鬼道が鬼道が。

「サク」
「…咲ちゃん」
「調子、戻った?」
「全然。
 オレ、治りが遅い体質なのかな?」

無理矢理笑うサク。
それはとてもじゃないが笑顔とは呼べない。
あの綺麗な笑顔はどこに行った?

「大丈夫、すぐよくなる」
「ありがと、咲ちゃん」

サクの表情から無邪気さが消えた。
オレに甘えてきていたサクはいない。
鬼道がサクから笑顔を奪った。
鬼道がサクから感情を奪った。
鬼道がオレからアイツを奪った。
鬼道がオレ達から、サッカーを奪った。
許さない許さない許さない。
絶対、許さない。
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