リクエスト

□"悪ノ娘"の願い事
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誰もいない夜の懺悔室。
そこにぼうっと弱く光が灯る。
小さな光はユラユラ揺れて、大きな影が映される。

「神様…本当にいるのなら、私の話を聞いてください。
 私は、たくさんの過ちを犯しました」

懺悔室に響くのは少女のか弱い声。
銀色の艶やかな髪を、金色の髪紐で1つに束ねた少女の名前はシルバー。
エレクトル国の港にある教会で、雑用係として雇われている。
先日起こったシルベスト国との戦争に巻き込まれたショックからか、自分の名前すら覚えていない。
そんな少女がなぜ、「たくさんの過ちを犯した」と言うのか。
彼女の懺悔は続く。

「全ての権力を家臣達に奪われても、それを奪い返す事が出来ませんでした。
 そればかりか、家臣達が下す罰を恐れる余り、テルルド王子の怒りに触れ、戦争まで起きてしまいました」

まるで先日の戦争は自分の責任だと言わんばかりの懺悔。
ただの雑用係の彼女が、戦争に関わっているはずは無い。
本当に彼女が、巻き込まれただけの少女だったなら。

「私はそこで死ぬつもりでした。
 全ての罪を償うために」

今この世に、彼女の正体を知る者はいない。
彼女自身と、たった今、それに気づきかけている者を除いて。

「でも、私は生き延びてしまった。
 誰よりも大切な人達を、犠牲にして…。
 私は…私の代わりに…犠牲となった…兄弟がっ…ホントは、兄弟じゃない事、知ってて…。
 私に…特別な想いを、抱いてる事も…。
 でもっ、それを言ったら…彼が…どこかに、行ってしまう気がして…。
 側にいて、ほしくて…!
 神様…本当に、貴方という存在があるのなら、どうか、私に罰を…!」

古びた手鏡に、包帯が巻かれた右目を映す。
白い包帯が無くなれば、醜く残った傷痕が現になる。
その傷こそ、彼女が戦争の中心にいた事を示すもの。
その手鏡こそ、彼女が今ここにいる証し。

「コウガ…アキラ…」

小瓶を抱えた彼女こそ、悪逆非道で世間知らず、悪魔の生まれ変わりと言われた、シルベスト第16王女――サクラ=シルベスト=アンドール。
「悪ノ娘」と呼ばれ、贅の限りを尽くしたと言われている、歴史上最悪の王女。
しかし記録や書物では、シルベスト国の崩壊と共に処刑されたとされている。
そんな彼女が、なぜエレクトルの教会にいるのか。
なぜ、懺悔などしているのか。

これは書物では語られていない、真実の物語。
 
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