F×S

□Near
1ページ/8ページ

一日のハードな練習も終わり、飯も食った。
後は風呂に入って寝るだけだ。

「不動、佐久間を知らないか?」
「佐久間?」
「さっきから探しているんだが、どこにもいないんだ」

鬼道がオレに聞いてくるって事は、かなり探し回ったって事だな。
いつもは鬼道鬼道って煩いくらいにくっついてるのに、いざ鬼道が用がある時は見つからないのか。
一番面倒だな。

「生憎オレも見てねぇよ」
「そうか…」

まぁそういう反応になるよな。
自分の想い人が行方不明じゃあよぉ。
…オレも人の事言えねぇか。

「ま、そのうち戻って来るんじゃねぇの?」

適当な事を言ってその場を離れる。
そりゃ自分が好きな奴が想いを寄せる奴(しかも無自覚両想い)と一緒にいても全く楽しくない。
むしろ不愉快だ。
鬼道と同じように、オレも佐久間が好きだ。
俗に言う"一目惚れ"ってヤツ。
真・帝国学園でのアイツの強さや努力を見てると、ますます想いは大きくなるばかりだった。
そしてそれは今も変わらない。
鬼道の隣を、追いつこうと必死に走る佐久間の姿は、どんどんオレを虜にする。
だが佐久間は鬼道が好きだ。
本人に聞いたわけじゃないが、見てればそれくらいわかる。
で、鬼道も佐久間が好き。
最悪のパターンだ。
どちらかがそれに気づけば、一気に2人は"コイビト同士"になるだろうな。
うわ、最悪な事想像してる。
鬼道が佐久間を大切に想ってる事を再認識させられたオレは、憂さ晴らしに軽く散歩する。
走った方が憂さ晴らしになるが、今ランニングする体力は残ってない。
宿を離れ、グラウンド横の森に入る。
多少は道を覚えたから、ある程度奥に入っても迷わず出て来れる。
少し奥に進むと、誰かの笑い声が聞こえた。
オレ以外に、こんな暗い森に来る奴がいるとは思わなかった。
誰なのか確かめるため、声がした方へ向かってみる。

「アハハ、くすぐったいよ」
「佐久間!?」
「わっ!不動!?」

ついさっき鬼道が探し回ってた奴がオレの目の前にいた。
しかも楽しそうに笑いながら。

「お前、何でこんな所にいるんだ?
 鬼道くんが探し回ってるぜ?」
「鬼道が?
 わかった、後で行く。
 ありがとう」

ざまぁ鬼道。
後回しにされてやがる。

「ナゥ〜」
「はいはい、わかったってば」
「お、お前それ…」
「あぁ、コイツ?
 可愛いだろ!」

佐久間が抱き抱えているのは、真っ白な猫。
かなり佐久間に懐いているらしく、頬擦りしてペロペロと舐めている。

「…猫」
「不動、もしかして…猫嫌い?」

不安げな声でオレを覗き込むように佐久間が見てきた。
むしろオレは猫好きだ。
犬より猫が好き、完全な猫派だ。

「嫌いじゃねぇよ」
「そうか、よかった!
 鬼道は猫嫌いだから、てっきりお前もそうなのかと思った」
「何でそうなるんだ?」
「猫見た時の顔が似てた」

嬉しそうに笑いながら、佐久間は猫の頭を撫でる。
猫が気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らすのが聞こえる。
それにしても鬼道が猫嫌いだったとは。

「お前は犬嫌いなのかよ?」
「オレは両方好きだ。
 正直、何で犬派とか猫派とかわけるのかわからない」

あらー、そうですか。
オレは犬より猫のが好きですよ。

「みゃう〜」
「んー、ミルクは可愛いなぁ」
「名前あんのかよ」
「あぁ!」

ミルクて…、そりゃ白いけどさ。
思い切り女がつけそうな名前じゃねぇか。
佐久間曰く、ライオコット島に来てすぐに見つけた猫らしい。
腹を空かせてたから、餌をやったら懐かれたんだと。

「ミルクねぇ」
「なぅ?」
「あ、返事した」

これは猫好きにはたまらんな。
初対面のオレにも擦り寄ってくる。
ヤバい、可愛い。

「オレ、ミルクに餌あげにこの辺に来るから、お前も一緒来るか?」

それはつまり…佐久間と2人きりになれるって事か。
佐久間と猫と一緒。
悪くない、むしろ最高だ。

「あぁ、そうさせてもらう」

無邪気に笑う佐久間が可愛くて、つい素直に誘いに乗ってしまった。
だがこれで、オレにも可能性が出て来たわけだ。
むしろ同じモノが好きなオレのが有利だ。
鬼道、油断してると、オレが佐久間をもらっちまうぜ?
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ