F×S

□銀色の天使
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オレが初めてその人を見たのは小学校の頃。
兄さんが足を怪我する前だ。
2人でボールを蹴っては、イナズマジャパンの選手の技真似をして遊んでいた。
兄さんはオレより学年が上だから、帰りが遅い時があった。
だからオレは、兄さんが帰って来るまでの間、1人でボールを蹴っていた。
だがある日、ボールを蹴り損ねてしまい、廃病院の敷地内に入り込んでしまった。
ボールを無くしたとなれば、兄さんとサッカー出来ない。
オレは廃病院に入り、飛んで行ったボールを探した。
廃病院は人気が無く、気味が悪くて仕方ない。
やっとボールを見つけ、気味の悪い廃病院から離れようとした時、あの人に出会った。
正確にはあの人の声に惹かれて、声のする方に向かったんだ。

『貴方のためにと放つ鳥 願いを叶える青い鳥
 私の思いを翼とし 幸せを運ぶ青い鳥』

手鞠唄のような歌に合わせて、まるで踊るようにボールを蹴る、天使のように綺麗な人。
まだ幼かったオレは、本当に天使かと思った。

「何か用か?」
「ッ!」

隠れていたつもりだったが、天使様には丸見えだったらしい。
天使様はオレに優しく笑いかけた。

「おいで、一緒にするか?」

そう言って天使様はボールを蹴り上げる。
オレは気づいたら天使様とボールを蹴り合っていた。
兄さんとは違ったボールの動きを追う感覚が楽しくて仕方ない。
つい夢中になって、気づけば空兄さんとの待ち合わせ時間。

「ねぇ、もうすぐ兄さんが来るんだけど、一緒に遊ぼ」
「ごめん、無理だ」
「どうして?」
「もう帰らなきゃ。
 明日、大事な用事があるからな」
「用事?」
「あぁ、用事」
「そうなんだ…。
 ねぇ、もう会えない?」
「また明日もここに来るよ」
「本当!?」
「あぁ、約束。
 だから今日はもう行きな」
「うん!」

天使様と別れ、オレは兄さんとの待ち合わせ場所に向かう。
もう来ていた兄さんに、オレは天使様の事を話して聞かせた。

「すっごく綺麗で、サッカー上手だったんだ!」
「銀色の天使様か…。
 オレも会ってみたかったな」
「また明日も来てくれるって!
 兄さんも一緒に行こう!」

オレは無邪気に、天使様の所に兄さんと行く約束をした。
嬉しくて、明日が待ち遠しくて、オレはただはしゃいでいた。
兄さんと一緒に。
そう約束したのに…。
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