F×S
□ウラギリレンサ
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「ただいま」
「おけーり」
十年前のFFIが終わったあの時から、オレは佐久間の家に居候してる。
間借り賃は家事全般(と言っても当番制だが)。
佐久間の家は超高級マンション(メゾネットってヤツだ)の最上階のペントハウスだ。
家事だけでそこの部屋を借りられてるからものすごく安い。
しかも家事は昔から普通にやってたから慣れっこだ。
つまり最早タダ住みと言うか…。
ち、ちゃんと仕事はしてるし、給料の何割かは佐久間に渡してるぞ!
「おー、お疲れだな佐久間コーチ」
「うるさい」
「はいはい、コーヒー飲む?」
「飲む」
帰った途端スーツを着たままソファーにダイブした佐久間を無理矢理起こし、上着を脱がす。
あー皺になる皺になる。
「どうだ今の帝国は?」
「雅野と御門がなー。
仲よく出来ないのかなアイツら」
「お前が言えた事か?」
「お前こそ、編入当初は源田達とぶつかりまくってたくせに」
鬼道からもらったネクタイ(正直ダサい)を外し、部屋着のショートパンツにブラウスという、何やらとんでもない格好になった佐久間は甘い物をご所望のようだ。
ソファーの上で体育座りになってる。
「ほれ、コーヒー」
「サンキュ」
ミルクをたっぷり加えた佐久間のコーヒーの側にクッキーとチョコを乗せた皿を置いてやる。
それを見た佐久間の顔は一瞬で子供のような笑顔になった。
「なぁ、不動も帝国に来てくれよ」
「生憎オレはガキに物事教えるのが苦手なんだ」
「やりだすと誰より夢中になるのに?」
「…」
反論出来ませんでした。
「お、オレはお前に頼まれたフィフスセクターの情報収集やら何やらで忙しいの」
「お前の仕事のついででいいって言ったじゃん」
「そうも言ってらんねーだろ」
「でもかなりキツくないか?
ただでさえ最近はオレの当番押し付けてるし」
確かに、最近超ハードな毎日を過ごす佐久間に変わって、オレが家事をする事が増えていた。
いやそれは構わないんだが…。
「お前こそ、たまには休みもらえば?
死にそうな顔してるぞ?」
昔からだが、佐久間は一度に色々なものを熟そうとする。
家事もサッカー部のコーチも、フィフスセクターの事も。
「休んでなんかいられない。
シードの特定さえまだ出来てないんだ。
まだ…がんばら、ないと…」
「おっと」
急に佐久間の身体が傾き、オレに凭れ掛かってきた。
身体を支えて顔を覗き込めば、すやすやと眠っている。
「全く、お前は…」
最近このパターンが多い。
帰ってしばらくしたら、急に倒れるように眠る。
飯も食わずにだ。
そしてオレが起きる前に帝国に向かう。
この生活のせいか、最近どんどん佐久間は痩せていってる気がする。
「…佐久間」
しんと静まり返っていた部屋に、オレのじゃない携帯の着信音が響く。
佐久間をソファーに寝かし、上着のポケットから携帯を取り出す。
「佐久間さ〜ん、お電話ですよ〜」
当たり前だが返事は無い。
どうやらメールだったらしい。
普段ならこんな事しないのに、オレは迷わず佐久間の携帯を開いた。
閉じていた携帯の上の部分に、ある人物の名前が映し出されていたから。