F×S

□星に願いを…
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ライオコット島に来てからのオレの密かな楽しみ。
夜中に窓から部屋を抜け出し、そのまま宿の屋根をつたい、屋根の上に登る。
空を見上げれば一面に広がる光の屑達。
ただ太陽の光を反射させてるだけなのに、すごく綺麗だと思う。
それに、東京の空とは違って、手を伸ばせば掴めそうなくらい星がハッキリ見える。
仰向けになって星を見ていたオレは、空に向かって無意識に手を伸ばした。

「・・・届くわけないか」
「何に届かないって?」

返ってこないはずの返事に驚き、危うく屋根から落ちかける。

「そこまで驚くか?」
「急に出てくんなハゲッ!!」

オレの腕を掴んで引き上げる不動をキッと睨むが、軽くスルーされた。
せっかくリラックス出来てたのに、コイツのせいでイライラに変わっちまったじゃねぇか。
あー、最悪。

「何してんだ?」
「何でもいいだろ」
「ホームシックか?」
「ちげーよバーカ、死ね」
「誰が死んでやるか」

何気にオレの隣に居座る不動にイライラしたオレは、気を紛らわすためにまた空を見上げる。
見えているのに届かない。
まるであの人と同じ。
目の前に見えているのに、どんなに手を伸ばしても届かない。
そのうちに、不動が居る事も忘れて、ウトウトしてしまう。

「眠いなら部屋に戻れよ」
「うるせ」

事あるごとに話し掛けてくる不動の声がやたらに癪にさわる。

「まさかお前に天体観測なんて趣味があるとはな」
「観測、と言うより、ただ星を見るのが好きなだけだ」

へぇ、と不動の短い返事。
そしてオレと同じ方向を向くと、

「オレも天体観測なんかより、ただ見てるだけの方が好きだな」

なんて言うから、思わず不動を凝視してしまう。
正直、驚いた。
不動がそんな事言うとは思ってもなかったから。

「なんだよ?
 オレの顔に何かついてんのか?」
「別に…」

そう言って上を向くと、まっすぐな尾を引きながら、ヒュンッと視界を横切る一筋の光。

「あ、流れ星!」
「えっマジ!?」
「ほらあそこ!」
「おおっ!初めて見た!」
「今のが初めて!?
 嘘だろ?」
「いや、マジだって」

真夜中だって事も忘れてオレ達は騒いでいた。
もし監督が目を覚ましたら、オレ達は明日の練習メニューを倍にされるだろう。

「そういや、流れ星に願い事をすれば叶うとか言うけど、あれってどうなんだろうな」
「知るか。
 つかどこの乙女だ、ハゲのくせに」
「ハゲは余計だっ、ハゲは!
 本当に願いが叶った奴とか居るのかって気になっただけだ。
 ああいう噂とかって絶対何か出所があるだろ?
 なら誰かが願いを叶えたって事じゃね?」

コイツは何が言いたいんだ?
ホント訳わかんねぇ。
つか、不動ってこんなキャラだっけ?
なんか違う気がする。

「藁にも縋る思いで流れ星に願ってみたら、それっぽい事が起こりました、みたいな事だろ。
 どうせ」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだろ」

多分コイツ、心霊スポットとか行っても、なんでここが心霊スポットなのかが気になるタイプだ。
つまり肝試しにむいてないタイプ。

「佐久間さぁ」
「あ?」
「黙ってたらホント女っぽいな」

直後、不動の腹にジャッジスルーが打たれたのは言うまでもない。

「いったぁ!!
 危ねぇだろ!」
「誰が女だ!」
「悔しかったら男っぽい顔になってみろよ、次郎ちゃん」
「黙れバナナ!
 下の名前で呼ぶな!
 ちゃん付けするな!!」

暴れまくっていると、突然ドアの開閉音が聞こえたから、オレ達は一瞬で凍りついたが、メンバーの誰かがトイレか何かに起きただけらしい。
心臓に悪い!
今の音に頭を冷やされたオレ達は、またぼーっと星を見ていた。

「なぁ不動」
「んー?」
「お前、星好きじゃないだろ?」

そう言って、不動の方を向くと、ポカンとした不動の顔があった。
何故わかった?とでも言いたげだ。
その顔に少し笑えた。
不動と一緒に居て笑えるなんて、ちょっと前まで考えられなかったのに。

「不動って意外とわかりやすいんだな」
「うるせぇ」
「なぁ、なんで星が好きじゃないのに「好き」って言ったんだ?」
「どうでもいいだろ」

ぷぃっとオレから顔を逸らすと、小声で「叶わねぇじゃねぇか」と言うのが聞こえた。

「何が叶わないんだ?」
「なんでもねぇよ!」
「嘘だろ?
 なぁ教えろよぉー」
「うるせぇ!
 オレはもう寝る!」
「あ、待て不動!
 逃げるな!」

不動を追いかけて屋根から降りたオレは、多分不動の願い事を知る事は無いんだと思う。
これから先、永遠に。


だってオレ達は、同じ事を願ったんだもん。


"オレの目の前にいる人に、どうかこの想いが届きますように"

星に願いを…。









どうしよう、方向性が見えないww

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