G×S

□クリスマスのキセキ
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真・帝国学園での事件の後、即入院となったオレ達は、それぞれの傷に見合った治療を受けた。
そのお陰か、しばらくするとオレは退院して、リハビリも通院という形になった。
最初は抵抗があったが、いざ学校に顔を出すと、サッカー部のメンバーは笑顔と泣き顔でオレを迎えてくれた。
手の感覚も戻ってきたし、もうしばらくすれば今までと同じ日常に戻れると思った。
そう思っていた。
だが、オレと一緒に病院に運ばれた佐久間の意識が戻らないらしく、アイツが部室に現れる事は無かった。
オレはリハビリと託つけて佐久間が入院してる病室に通った。
呼吸器や点滴等を除けば何度か見たことがある佐久間の寝顔。

「佐久間」

無意味だとわかっていながら名前を呼ぶ。
もしかしたら返事してくれるかもしれないと、微かな希望を持って。
だが返ってくるのは機械的な呼吸音。
それでもいい。
佐久間が生きてさえいてくれれば、それ以上は望まない。

「佐久間…」

潮風のせいで傷んだ髪をそっと撫で、独り言の様に佐久間に話し掛ける。

「髪、傷んでるな。
 お前の目が覚めたら、少し髪を切ろう。
 毛先を揃えて、シャンプーして、トリートメントもしっかりしなきゃな。
 咲山に聞いたら、いいヤツ教えてくれるかな?」

聞こえるはずのない問い掛け。
返ってくる事のない答え。
それでもオレは、毎日毎日佐久間の病室に通い、たくさん話し掛けた。
学校での事、部活での事。
まるで、佐久間が本当に聞いてるかの様に話して聞かせた。


――――――――――――――
――――――


時間とは無意識のうちに流れてしまっているもので、気がつけばもう12月の下旬に差し掛かっていた。

「佐久間、もうすぐクリスマスだぞ! もう成神と洞面がハシャギまくって大変なんだよ。
 みんなでクリスマスパーティーするって。
 そういえば、去年はオレとお前の2人でパーティーしたな。
 オレの家に来て、小さいケーキを買って2人で食って、プレゼント交換して・・・」

いつもどうり佐久間に話し掛けていると、何故か不意に涙が溢れそうになった。
何故だろう?
今までこんな事無かったのに。

「なんだよ…?
 なんで今更泣きそうになってるんだよ?
 おかしいだろ!?」

ごめん佐久間、と言い残して、オレは病室を出た。


――――――――――――――
――――――


「源田先輩!
 明日は終業式が終わったら即部室ッスよ!」
「あぁ、わかってるよ」

はりきっている成神に、また明日と手を振って、オレは佐久間のいる病室に向かった。

「よぉ佐久間、来たぞ。
 いや〜外は無茶苦茶寒い!
 雪降りそうなくらい寒いぞ。
 佐久間は寒いのは嫌いだけど、雪は好きだったよな」

昨日の事は出来るだけ頭の隅に押しやり、いつもどうりに話す。
なんとなく、佐久間の前で泣きたくない。
それが単なる我が儘だとはわかっていた。
だが佐久間の前で自分の弱さを見せたくなかった。

「今日は23日だから、パーティーは明日だな」

突然また涙が溢れそうになる。
我慢しなきゃと思っているのに、泣いちゃダメだと自分に言い聞かせているのに、どうしても止まらない。
このまま話し続けたら、きっとオレは・・・。

「佐久間、覚えているか?
 去年の約束の事。
 去年のクリスマスパーティーの時"来年も一緒にパーティーしような"って…。
 なぁ佐久間、クリスマスは明日だぞ?
 早く目を覚ませよ!
 約束したじゃないか!
 来年も、2人で、一緒に・・・」

我慢出来なくなったオレは、佐久間のベッドの隣に座り、決して握り返してくれない佐久間の手を握った。

「なぁ佐久間ぁ…ずっと我慢してきたけど…オレ、お前いないと・・・やっぱりダメなんだ・・・・。
 学校で、サッカー部の…奴らと…いっしょに、いても、お前が・・・お前がいなきゃ…楽しくないんだ…。
 サッカーやっても、何しても・・・・ぜんぜん、楽しくないんだよぉ…。
 早く起きろよぉ・・・・さみしいじゃねぇかぁ!」

そのまま佐久間の名前を何度も呼びながら、オレはただ泣きじゃくった。
何度も何度も佐久間の名前を呼びながら。
いつか"何泣いてんだよバーカ"と言って、この手を握り返してくれるんじゃないかと淡い期待をして…。
もうすぐクリスマスだというのに、神は何故こんなにもオレ達を苦しめるのだろうか?


――――――――――――――
――――――


終業式も終わり、今年最後のHRを切り上げると、今まで退屈そうにしていた奴らの表情が明らかに変わり、急に輝きだした。
オレが机の中の物を鞄に突っ込み、忘れ物が無いか確認していると、教室の出入り口の方から辺見の声がした。

「源田〜、部室行くぞ〜」
「すぐ行く・・・あ、悪い、先に行っててくれ。
 ちょっと遅れる」
「どうした?」
「寄り道だ」

やれやれといった感じの辺見を抜いて、足早に下駄箱に向かい靴を履き変えて校門を出ると、全速力で目的地に向かい走る。
夜中から降り続いていた雪が道を真っ白にしていたため、オレの足跡やスリップした跡がハッキリ見える。

「・・・佐久間ぁ!!」

病室のドアを勢いよくスライドさせ、ベッドの上で眠っている奴の名前を叫ぶ。
こちらに振り向く事も無いし、返事してくれる事も無い。
でもオレは呼び続ける。
いつか振り向いてくれるまで。
いつか返事してくれるまで。

「今日みんなでクリスマスパーティーやるだろう?
 遅くなるかもしれなかったから先に来た」

来る途中で買ってきた小さな花束を花瓶に挿し、それを邪魔にならない所に飾り、カーテンを開け、外の様子を眺めた。

「佐久間、外は雪で真っ白だぞ。
 お陰で何回か滑るし、病院の真ん前に来た時なんか派手に転んでな。
 めちゃめちゃ痛いうえに恥ずかしかった」
「雪の日に走るからだろう。
 バカな奴」

返ってこないはずの返事がオレの耳に届いた気がした。
視線を窓の外から部屋の中へと移して、声がした方を見ると、オレンジの瞳がオレを見ていた。

「さ…くま…!?」
「・・・おはよ、源田」

オレの方を見ながらふわりと笑う佐久間を見て、気がつくとオレは佐久間を抱きしめていた。

「さくま・・・さくまぁ・・・・」
「また泣いてんのかよ、ダッセェ」「またって…なんだよ?」
「お前さ…オレが寝てる間、ずっと話し掛けてくれてただろう?
 オレ、寝てたけど…お前の声、全部聞こえてた。
 辺見達の事話すのも、オレの…名前、を…呼ぶ声も…全部・・・・」

細い肩が小さく震えていたから、佐久間も泣いているんだとわかった。
だんだん弱くなっていく声がその証拠だ。

「オレ、鬼道達を…あんなに、傷つけたから…、このまま、真っ暗な中で…一人、消えちゃえばいいのにって…思ってた。
 でも、いつも源田が…オレに話し掛けて、くれたから・・・・オレが、いないと・・・さみしいって、言ってくれたから…生きなきゃって思って・・・源田に、会わなきゃって・・・・・」
「さ、くま、さくまぁ…さくまぁ…」

生きてくれて、ありがとう。


クリスマスの日に起きた、
小さな小さな奇跡。











フライング更新なうえにこの残念クオリティー。
ちょっと窓から飛び降りてきます。

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