ANOTHER×S

□時計塔の歌
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オレの村の外れに、古びた大きな時計塔がある。
昔は隣の村までその鐘の音が響き渡っていたらしいけど、もう何十年も動いてない。
しかも幽霊が出るって噂があるから、誰も時計塔に近づこうとしない。
でもある日、1人で退屈していたオレは、その時計塔に行ってみる事にしたんだ。
簡単な肝試し。
すぐに帰るつもりだった。
でも…

ガサッ!
パタパタ…

誰もいないはずの時計塔に、誰かの足音が響いた。
最初はただの風の音だと自分に言い聞かせてたけど、次第に音が近づいて来る。
気づけば足音は真後ろからしていた。

(よし、321で振り向くぞ…。
 3、2…)

ポン、ポン。

「みぎゃああぁぁぁぁ!!!」
「っ!!?」

鐘の音じゃないけど、オレの悲鳴は村中に響いたらしい。
逃げ回って走り回って、物陰から幽霊を見ると、オレと同じようにビックリした子供だった。
歳も大して変わらない。

「何だ人間かぁ…。
 驚かせるなよ」

そう言いながら物陰から出ると、その子は顔の前で両方の手の平を合わせた。
所謂"ごめんのポーズ"だ。

「お前も肝試し?」

フルフルと首を横に振る子供。
…何で喋らないのかな?

「なぁ、何で喋らないの?
 罰ゲーム?」

また首を横に振った。
口をパクパクさせてるけど、音は出ていない。

「もしかして、喋れないの?」

コクンと首を縦に振る。
何だ、声を出せないだけか。

「ねぇ名前は?」

そう聞いてから、喋れないんだから、聞いてもわからない事に気づいた。
するとその子はポケットから古びた紙とペンと取り出し、名前を書いて見せてくれた。
中にはなぜかやたら古い文字が使われていたけど、何とか「サクマ」と読み取る事が出来た。

「サクマっていうのか!
 オレは成神!」

口をパクパクさせて、形だけだけど「成神」と言ったんだとわかった。
よく見てみると、サクマは身体中埃塗れで、両手足には油みたいなのがこびりついていた。

「こんな所で何してたの?」
『時計の修理』
「修理?
 この時計の?」

コクンと頷き、ポケットから小さな歯車を取り出した。
錆び付いて欠けた小さな歯車。
もう使い物にはならないだろう。

『歯車の替え、知らない?
 部品が足りないんだ』
「んな事言われてもな〜。
 …時計屋にでも行けば、部品売ってくれるんじゃない?」
『お金、無い』
「マジか」

歯車なんて、どこにでもある物じゃないし…。
でも何でサクマは1人で時計を修理してるんだろ?
今まで誰も近寄らなかった時計を、今更。

『もう一度聞かせたい』
「聞かせたいって何を?」
『鐘の音、時計塔の歌』

時計塔の歌?
どこかで聞いたフレーズだけど、その時は思い出せなかった。
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